学校に「月2日以上の欠席」の対応を求めるフランス

フランスでは、国の未来や社会問題の責任は国民一人ひとりにあると考えられており、教育の目的も「責任ある市民」を育てることにあるとされている。いわば、教育は国づくりの土台であるため、不登校(※)や孤立は「国家のリスク」と捉えられている。

※ フランスには「不登校」という言葉は存在せず「不規則問題」と表現されるが、以下、欠席が多い状況を便宜上「不登校」と表現する

安發明子(あわ・あきこ)
フランス子ども家庭福祉研究/通訳
1981年鹿児島生まれ。首都圏で生活保護ワーカーとして働いたのち2011年渡仏。一橋大学社会学部、フランス国立社会科学高等研究院健康社会政策学修士、社会学修士。著書に『一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族』(かもがわ出版)、『ターラの夢見た家族生活 親子をまるごと支えるフランスの在宅教育支援』パボ著 安發明子訳(サウザンブックス)ほか
https://akikoawa.com/

それゆえ、フランスでは不登校の対応は公的機関が行い、特別なサポートも公的予算によってなされる。その予算確保の社会的同意を得るため、フランス教育省はホームページに「学校からの早期退出は社会的コストである」と明記している。市民も公的サービスの費用を税金として払っているので、子どもに合った教育を提供できていなければ、それは公的機関の落ち度だと考える。

とくに「平等」については、学校が重要な役割を担う。フランス政府は、1882年より「医師の診断のない月2日以上の欠席」への対応を学校側に求めるようになった。1989年には、「平等の原則」として「どのような家庭出身の子どもでも社会的に成功できることを学校が可能にする」と打ち出している。

さらに1996年の「欠席予防の通達」により、「心理面、知能面、感情面、愛情面、社会に適合する能力、成熟」のすべての面において学校が子どもの成長を支えることが定められた。よい成長のためには「困難な状況から回復することを学校が手伝う必要がある」という認識が共有されるようになったのだ。そして1999年には「教育は子どもの基本的な権利」と再確認されている。

こうした背景から、課題の大きい学校ほど、専門職を多く雇う予算が下りる。例えば校長も、移民や低所得者層の多い地域にある優先校で20%、特別優先校で50%ほど他校より給料が高い。これは富裕層の多い地域で教員の給料がいいアメリカとは逆だ。

筆者が調査したある優先校の中学校は1学年110人(22人×5クラス)の規模で、子どもと親とのやり取りを担当する教育相談員2人、教育アシスタント10人、ケンカや恋愛関係のもつれを専門とする仲裁専門家1人、休み時間や放課後の学習を担当するスタッフ8人、そのほかソーシャルワーカー、心理師、看護師がそれぞれフルタイムで配置されていた。

中学校の教員は基本的に週15~18時間の授業だけをする契約なので、ほかのスタッフとの役割分担が明確だ。遅刻や欠席がある子どもや相談を希望する子どもがいる場合、その子どもからチューター役を指名されると教員も生活全般の相談に乗る必要があるが、それを引き受ける際には別途契約を結び追加で給料を受け取る。こうした点は、とくに手当もないまま教員の負担が増えがちな日本と大きく違うところではないだろうか。

「包括的な不登校対応」の仕組みとは?

では、フランスの小・中学校では具体的にどう不登校の対応をしているのか。パリ市では、下記の図のように包括的な対応の仕組みが構築されている。

対応の基盤となるのは、学校だ。不登校の理由は、学習面・心理面・不慮の理由(人間関係や恐喝に遭うなど)・社会的な理由(家庭環境など)の4つに分類されており、まずはその見立てに応じて学校の教員と心理士、ソーシャルワーカーなどが連携して対応していく。

中学校には教育相談員も配置されており、「休み時間にいつもの友達と遊ばなかった」といった様子が見られた場合にはすぐ面談をするなど、早期にケアできるようにしている。

継続的な支援が必要な場合、学校は主に次の2カ所を勧める。1つは、各区にある公立の心理医療センターで、児童精神科医や心理士が親子のケアとそのコーディネートを行う。もう1つは県の児童保護予算による在宅教育支援で、児童保護専門の国家資格を持つ「エデュケーター」が定期的に親子に会い子育てを支えていく。

また、教育委員会に所属する医療チームは、健康診断の際に身体面だけでなく学習面、心理面もチェックし、問題があれば解決までフォローする。その中で医療を受診しない、授業中に集中できないなど何か心配があれば、前述の在宅教育支援などが提案される。

病院も学校と連携して子どもたちを支えている。医師の診断のない月2日以上の欠席は認められていないので、学校に行けない子どもはまず医療機関を受診する。病気が見つからないけれど調子の悪い子どもや、いじめに遭って学校に行くのがつらいという子どもなど状況はさまざまだ。

病院には地域でのフォローを担当する「移動班」という多職種チームがあるが、医療ニーズのみではない子どもたちへの対応はこの移動班が担っている。

パリ市立小児病院「移動班」の責任者である小児科医は、不登校は「行動の変化」であり「症状」と捉えているそうで、「学校に行きたくなくなる背景にあるのは、周りが適した環境やケアを用意できなかったから。学校が子どものニーズに応えることができていない、子どもに合った学び方を用意できていない『学校のネグレクト』の状況が多くある」と話す。

移動班は子どもが話せる場所を見つけ、親と子どもが問題について話せるよう助け、子どもの周囲に親子を支える専門職チームをつくる。チームは心理医療センター、在宅教育支援、後述する地域の家やティーンエイジャーの家の専門職たちから成り、彼らが学校にも出入りするようになると、学校側もよりよく子どもに対応でき、環境の改善がしやすくなるという。

例えば成績の低下などを理由に始まる支援の経過を追うと、「頑張りなさい」といった声がけでは解決しなかったであろう原因が見えてくる。トラウマや、人間関係の問題、両親間の葛藤などだ。原因を特定し解決すると、子どもの調子は回復して楽しみに学校に通い、勉強に集中できるようにもなるので、フランスの包括的な支援は合理的な仕組みだと筆者は考える。

市町村と学校の二重体制で登校していない子を把握

では、欠席が続く場合はどうなるのか。子どもの欠席情報はオンラインで教育委員会に共有され、月2日以上の欠席が確認されると、まずは教育委員会から親に対して子どものサポート方法の提案などがなされる。

さらに月5日以上子どもが登校しない場合は、子どもの権利が守られていない「心配な状況」とみなされ、児童保護(18歳未満)の対象になる。「心配な情報」は子どもの状況を知っている人全員がそれぞれの視点から県の統括部署に連絡する義務があり、その情報を踏まえて児童保護分野の専門チームが、家庭全体に対して集中的な支援を行っていく。

状況が判断できない、あるいは支援が有効でない場合は、子ども専門裁判所の検事に連絡がいき、一時保護や司法調査の対象になる。子ども自身が全寮制の公立校(3歳から入れる)を選ぶケースもある。

一方で、市町村長には、在住する子どものリストをつくり、滞在許可や安定した住居の有無にかかわらず、すべての子どもがどの学校に行っているか私立も含め確認する義務がある。市町村と学校の二重の義務により、登校していない子どもの把握漏れがない仕組みにしているのだ。

フランスにおいて、2021年度に医師の診断のない月2日以上の欠席をしたのは中学生の4.2%、欠席が継続し教育委員会が対応した中学生は0.5%だった。日本においては、文部科学省の調査によれば、2022年度に年間30日以上欠席したのは中学生の6%、小学生の1.7%、うち約4割は学校内外の相談機関などで相談をしていない。フランスの欠席基準は、日本の30日に対し2日とかなり短い。この短さが、子どものウェルビーイングと権利を確保するためのサポート体制構築の早さにつながっていると思う。

日本は「学校に行く意味」を問い直す必要がある

このほか、登校に課題があり、継続的な支援が必要な子どものために用意されている場所もいくつかある。ただし、パリ市の教育委員会にヒアリングした限り、いずれも日本の学びの多様化学校(不登校特例校)のように特別の教育課程を編成する場所ではない。学校内でサポートを受ける、あるいは学校に行きながら放課後に通う形を取っており、すべての子どもが国の示す水準の教育が公的費用で受けられることを優先している。

県が提案する継続的な支援の多くは、下図のような民間の専門機関が担うものだ。国の社会保障予算か県の児童保護予算によって運営されているため、子どもたちは無料で通える。

いずれもエデュケーターが中心となり親子に関わる。例えば日中受け入れ機関では、人間関係や感情のコントロールなどの課題を3カ月で克服するプログラムを用意している。いじめの加害や被害などで一度学校から離れてケアをする必要がある場合は、最長2年かけて一般の学校に戻ることを目指す受け入れ機関もある。

このような場所で力を入れているのは、過去のケア、家族関係のケア、自信を育てるためのアクティビティーの提案だ。エデュケーターは、子どもが自身の経験についてプラスのイメージを持てるよう、家族と話す機会や喜びを感じる機会をつくるほか、さまざまなアクティビティーを基に子どもたちの好奇心や好みを刺激して社会的心理的能力も育む。そして、「君はこんなすばらしい可能性がある」と見つけ励ます。子どもたちは自信をつけると、自ら勉強に励み一般の学校に戻っていく。

不登校受け入れ機関では、馬セラピー(左上)や美容パックでのリラクゼーション(右上)、ローラーブレードでバスケット(左下)、旅行(右下)など自信を育てるためのアクティビティーを実施

このようにフランスでは教育の平等が図られているが、同じ資格、同じ大学院卒でも就職先は平等ではないという課題がある。そんな不平等な社会への不満があふれる中、よりよい社会を実現するため「責任ある市民」を育てようという価値観が教育現場を支えており、それが不登校の対応にもつながっている。

フランスの教育省の学校生活責任者は、学校に行く理由を「聡明で自由を得た市民になるため」と言う。影響やプレッシャーに負けることなく情報収集して自分で判断することができて初めて自由でいられ、自由であることで市民として行動できるという意味だそうだ。

日本は、そのように学校に行く意味を明確に共有できているとは言いがたい。共有すべき価値観や哲学が曖昧であるゆえ、子どもの権利の保障の程度が親次第となるリスクに加え、実際のサポートも学校次第、出会い次第という不確かさがある。すべての子どもにとって頼りにできる大人がたくさんいる体制を構築すること、国が教育や学校の意味を国民に伝え直すことが、日本の不登校問題を解決する一歩となるのではないだろうか。

(写真:安發氏提供)