「不登校は社会的コスト」学校を基盤に福祉と連携するフランスの厚い支援体制 根底には「責任ある市民を育てる」という価値観

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移動班は子どもが話せる場所を見つけ、親と子どもが問題について話せるよう助け、子どもの周囲に親子を支える専門職チームをつくる。チームは心理医療センター、在宅教育支援、後述する地域の家やティーンエイジャーの家の専門職たちから成り、彼らが学校にも出入りするようになると、学校側もよりよく子どもに対応でき、環境の改善がしやすくなるという。

例えば成績の低下などを理由に始まる支援の経過を追うと、「頑張りなさい」といった声がけでは解決しなかったであろう原因が見えてくる。トラウマや、人間関係の問題、両親間の葛藤などだ。原因を特定し解決すると、子どもの調子は回復して楽しみに学校に通い、勉強に集中できるようにもなるので、フランスの包括的な支援は合理的な仕組みだと筆者は考える。

市町村と学校の二重体制で登校していない子を把握

では、欠席が続く場合はどうなるのか。子どもの欠席情報はオンラインで教育委員会に共有され、月2日以上の欠席が確認されると、まずは教育委員会から親に対して子どものサポート方法の提案などがなされる。

さらに月5日以上子どもが登校しない場合は、子どもの権利が守られていない「心配な状況」とみなされ、児童保護(18歳未満)の対象になる。「心配な情報」は子どもの状況を知っている人全員がそれぞれの視点から県の統括部署に連絡する義務があり、その情報を踏まえて児童保護分野の専門チームが、家庭全体に対して集中的な支援を行っていく。

状況が判断できない、あるいは支援が有効でない場合は、子ども専門裁判所の検事に連絡がいき、一時保護や司法調査の対象になる。子ども自身が全寮制の公立校(3歳から入れる)を選ぶケースもある。

一方で、市町村長には、在住する子どものリストをつくり、滞在許可や安定した住居の有無にかかわらず、すべての子どもがどの学校に行っているか私立も含め確認する義務がある。市町村と学校の二重の義務により、登校していない子どもの把握漏れがない仕組みにしているのだ。

フランスにおいて、2021年度に医師の診断のない月2日以上の欠席をしたのは中学生の4.2%、欠席が継続し教育委員会が対応した中学生は0.5%だった。日本においては、文部科学省の調査によれば、2022年度に年間30日以上欠席したのは中学生の6%、小学生の1.7%、うち約4割は学校内外の相談機関などで相談をしていない。フランスの欠席基準は、日本の30日に対し2日とかなり短い。この短さが、子どものウェルビーイングと権利を確保するためのサポート体制構築の早さにつながっていると思う。

日本は「学校に行く意味」を問い直す必要がある

このほか、登校に課題があり、継続的な支援が必要な子どものために用意されている場所もいくつかある。ただし、パリ市の教育委員会にヒアリングした限り、いずれも日本の学びの多様化学校(不登校特例校)のように特別の教育課程を編成する場所ではない。学校内でサポートを受ける、あるいは学校に行きながら放課後に通う形を取っており、すべての子どもが国の示す水準の教育が公的費用で受けられることを優先している。

県が提案する継続的な支援の多くは、下図のような民間の専門機関が担うものだ。国の社会保障予算か県の児童保護予算によって運営されているため、子どもたちは無料で通える。

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