アメリカで人気沸騰「かにかま」投資合戦の舞台裏 健康志向で市場拡大、日本の水産大手に商機

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そして2023年に一番目立った動きをしたのが、水産業界3位の極洋だ。現在は子会社キョクヨーフーズ(愛媛県)の工場で生産したものを輸出しているが、事業本格化に向けて、かにかま製造会社を4月にワシントン州に設立した。

「日本から輸送すると3~4週間かかるうえ、解凍する時間がもったいないとの声が(飲食などの)顧客から届いていた」(極洋の菱沼課長)ということもあり、現地法人設立に踏み切った。2023年度は25億円程度の資金を投じて工場設備を整え、2024年度中に稼働する予定だ。中期的に年間3000トン規模の生産を目指す。

さらに「サラダスティック」で知られる水産練り物大手・一正蒲鉾も、中東や東南アジアに並ぶ重点市場としてアメリカを挙げる。今2024年6月期には海外への輸出額を、前期比で2.2倍増にする構えだ。

足元の中国リスクもアメリカ攻勢の流れを強める可能性がある。中国が水産品の禁輸に踏み切って久しいが、回復の兆しはいまだ見えない。中国向けにかにかまを販売する中堅水産会社の担当者も「代替の販路確保が課題だが、その筆頭候補はやはりアメリカ」と語る。

漁獲枠は楽観視できず

もちろん、アメリカ攻略のリスクもある。1つは競合増加に伴う価格競争だ。水産関係者は「インドから安いかにかまが入るようになってきた。現地大手も追随する動きを見せており、価格下落リスクがある」と実情を明かす。

もう1つは原料調達の不安定さ。原材料のスケソウダラには、資源保護の観点から漁獲枠(漁獲可能量)が設けられており、年によって大きく変動する。足元は全体の漁獲枠が増えているが、決して先行きを楽観視できない。

対策として、マルハニチロは資源アクセスの強化に力を入れている。加工施設や漁獲枠付きの漁船を譲り受けるなどして枠を徐々に増やしており、スケソウダラについてはアメリカ・ベーリング海において27%のアクセス権益を取得済みだ。

業界2位のニッスイも「スケソウダラの漁獲枠はとるかとられるかのゼロサムゲーム。大きく増やすのは難しいにしても、少しずつ増やせる余地はある」(浅井正秀取締役)と意気込む。

国内では「魚食離れ」が長期化する中、伸び盛りである海外市場の攻略は水産各社にとっても極めて重要な戦略だ。海外市場で成長シナリオを描けるか。相次ぐ積極投資や販路開拓の成果に注目が集まる。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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