JR西、赤字ローカル線「ケタ違い投資」判断の背景 城端線と氷見線の3セク転換に150億円拠出

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「1kmいくらで決めるのではなく、主体的にまちづくりをしたいという地元の思いに報いたい」と長谷川社長は話す。新型車両の導入両数は現状よりも10両も多く、さまざまな設備が更新・再整備される。さらに残余分ともいえる移管後6年目以降の経営安定基金にも46億円。このようにインパクトがある金額を拠出することで、再構築後の鉄道を現状よりも良いものにしたいという考えがあった。「JR西日本はこんなに出してくれるのか」と受け止められれば、他地域の路線でも同様の議論が加速化する可能性がある。では、逆にもっと出せないのか。そう尋ねると、長谷川社長は150億円は「株主代表訴訟にならないぎりぎりの金額」だとした。

今回の150億円という金額が今後の他区間の参考になるかという問いに対して、長谷川社長は「輸送密度2000人以上のご利用があって地域の交通モードとして鉄道を維持する意義があるという前提で、経営改善しても毎年の収支は赤字だが、地元の自治体がその赤字額は地域公共交通を維持するための必要コストとして負担するというお覚悟があるのなら、われわれも協力することはありうる」と説明する。ほかの路線への応用は否定していない。

JR西日本は岡山・広島の両県にまたがる芸備線の一部区間について、国に「再構築協議会」の設置を要請している。だが、この区間の輸送密度は2000人を大きく下回っている。長谷川社長は「2000人以上のご利用」という前提条件を付けており、輸送密度2000人未満の区間においては当てはまらないと念を押している。

150億円拠出は今後の参考事例になるか

そうなると、城端線・氷見線の事例は今後どの路線に応用できるのか。かつての、あるいは現在の北陸本線と接続している路線のうち、大糸線(南小谷―糸魚川間)、高山線(猪谷―富山間)、越美北線(越前花堂―九頭竜湖間)、小浜線(敦賀―東舞鶴間)はいずれも輸送密度が2000人を下回っている。

花嫁のれん
七尾線などを走る観光列車「花嫁のれん」(撮影:尾形文繁)

一方で、金沢と和倉温泉を結ぶ観光列車「花嫁のれん」が走るなど観光路線としても知られる七尾線(津幡―和倉温泉間)は通勤・通学の足としても活用され、2022年度の輸送密度は3428人と安泰だ。JR西日本も「現時点で協議会立ち上げなどの動きはない」としているが、将来については決して楽観視できない。

視野をさらに広げれば、ほかのJRの路線にとっても城端線・氷見線の事例は今後の参考となりそうだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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