バスか徒歩か…通学方法の違いがもたらす、子どもへの影響と「格差」とは 新体力テストだけでは見えない「将来のリスク」
今求められる「地域の課題を授業に取り入れる指導スキル」
子どもが望んでも運動することが難しい地域では、学校が体育の授業以外での策を講じる必要があるだろう。例えば京都府南丹市の小学校では、地域の見守りボランティアの力を借りて、下校前に子どもたちが校庭で遊ぶための時間を確保した。
また、清水氏は、今日の教員に求められる指導スキルとして「地域の課題を見つけて授業に取り入れる力」を挙げた。この力は前述の「健康格差のリスク」軽減にも寄与するかもしれない。
「例えば健康課題について扱うなら、教科書に従って一律にがんの話をするのではなく、東北で多い高血圧の話をしっかりするとか。子どもたちにとっても身近で切実なことを話すといいと思います。また、地域の大人や異学年の子どもと協働することも有効です」
教室の外の人との交流は、子どもたちが地域を知る機会にもなるし、顔見知りが増えて、彼らが家から出る機会を増やす可能性もあるだろう。
現在はイエナプラン教育など、異年齢による学級構成も見直されてきている。清水氏は一人ひとりを丁寧に見られる小規模校にもメリットはあると考えており、子どもたちの通学距離が延びるような統合だけが選択肢ではないと話す。
「子どもが少ないエリアは必ずしも少子化による変化ではなく、実は昔から似たような状況だったというところが少なくない。それでも過去の日本は全国に分校を行き渡らせ、プールや体育館まで整備していた。これは本当に価値のあることです。統合が進んだのはそのリソースが割けなくなったことが主な原因であり、小規模校は少子化以前からずっと存在していました。学びの質を保つためには学校にある程度の規模が必要だとも言われますが、小規模校のすべてが悪いかといえば、決してそうではなかったはずです」
今後はさらに人口減少が進む。地域の教育インフラを守るためには、ICTの活用はもちろん、人材育成のあり方も改善すべきだと指摘する清水氏。
「複式学級の教育実習はあまり行われていませんが、教員免許を取得する過程で、小規模校を理解するための教育を行うことも不可欠です。一般的にへき地の教員は2~3年で異動します。しかしそれでは、子どもにとっては6年間見てくれる先生が一人もいないということになってしまいます。へき地医療と同様に、小規模校勤務を希望する教員を育て、学校の教育資源を引き継いでいくシステムの整備も重要です」
いずれにせよ、少子化に歯止めがかからない今日では、すべての学校が小規模化に向かっているといえるだろう。子どもの健康と学校の適正規模を測る清水氏の調査データは、向かうべき方向を考える重要なヒントになるはずだ。
(文:鈴木絢子、注記のない写真:H.Kuwagaki / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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