生徒の興味関心に対応できる教員がいない

教育NPOのカタリバが、今年4月から本格的にスタートさせた「学校横断型探究プロジェクト」。新学習指導要領により全国の高等学校で始まった「総合的な探究の時間」の現場では、生徒1人ひとりが興味関心に結び付いたテーマを立て、主体的・対話的に学習に取り組むことが求められる。

だが、実際には地域や学校の規模によって、活動の充実度に差が生まれているのも事実。そこでカタリバは、小規模校を対象に学校同士を連携させ、先生や生徒をオンラインでつなげることで探究の学びを深めるサポートを行っている。カタリバの同プロジェクト担当者、起塚拓志さんは次のように語る。

起塚拓志(おきづか・たくし)
認定NPO法人カタリバ
(写真:カタリバ提供)

「きっかけは2020年、もともと私たちがサポートしていた岩手県立大槌高校の総合探究を、実験的に他地域の高校とオンラインでつないだことです。当時はコロナ禍が猛威を振るい、外に出にくい状況だったので、オンラインを使って少しでも出会いの場を広げたいという思いで始めました。実際にやってみると生徒たちは新鮮な反応をしてくれ、先生方も手応えを感じるところがあった。ならば、もっと参加校を増やして規模を広げられないかということで21年から学校の公募を始め、現在までに全国から8校が参加するプロジェクトになっています」

主体的・対話的に学習に取り組むことが求められる探究学習。だが、小規模校は生徒数が少ないため、自分と似た分野に興味・関心を持つ仲間を見つけにくい。また、教員数も少ないことが多く、生徒の興味関心に対応できる教員がいない、あるいは、教員の専門分野に生徒が集まらないという課題があった。

「探究学習を深めていきたいが、同じテーマで学び合える仲間がいない、あるいは、生徒が興味・関心のあるテーマに対し、詳しい先生もいない。こうした点で、小規模校は探究学習にハンディキャップがあるのです。学校の外に頼ろうにも、周囲に大学がなかったり、地域の産業に偏りがあったりと、多様な教育資源にアプローチすることが難しいのが現実。そもそも、学校全体で探究学習をどう進めればいいか手探り状態の先生も少なくありません。そこで、生徒にも先生にも出会いの場を提供したいと思いました」

生徒数約250名、カタリバの「学校横断型探究プロジェクト」

こうした小規模校の課題を解決するため、2022年4月から本格的にスタートした「学校横断型探究プロジェクト」。具体的に、どのように行われているのだろうか。

現在、参加しているのは岩手県立大槌高校、山形県立小国高校、熊本県立小国高校、茨城県立小瀬高校、宮崎県立高千穂高校、第一学院高校横浜キャンパス、島根県立吉賀高校、栃木県立足利特別支援学校の計8校。全日制校に限らず、広域通信制の高校など多様な学校が名を連ねている。生徒総数は約250名だ。

今年は高校2年生を対象に「学校横断ゼミ授業」を実施。4校の連携グループをつくり、合同授業プログラムとして年4回、総合的な探究学習の授業をオンラインで共に行う。各グループには専門科目を活用できる先生のほか、テーマに関係を持つ大学生や専門家を配置し、学校単体では得られなかった多くのサポートで生徒の興味関心にシナジー効果を生むことを目指す。

それでは、実際の授業風景を見てみよう。今年11月に行われた第3回オンライン合同授業には、岩手県立大槌高校、山形県立小国高校、熊本県立小国高校、栃木県立足利特別支援学校の4校が参加。生徒約120名、先生約20名、サポーター約30名の合計170名ほどが、テーマごとに27のグループに分かれてオンライン上で互いの探究テーマを語り合う。授業時間は授業2コマ分の約2時間だ。司会やファシリテーターは生徒やサポーターが務め、教員たちはあくまでバックアップの役割を担う。

今回、総合司会を務めたのは、山形県立小国高校の女子生徒たち。やや緊張しているように見えるが、元気にハキハキと司会をこなしていく。

「意見を述べるときは『Yes, and!』。まずは肯定から入り、「そして、私は~こう思う」と続けましょう。リアクションは身振り手振りで『OK』や『GOOD!』をしてみてくださいね」

授業での姿勢について、司会の生徒から全体に説明があった

いずれも、互いの意見を前向きに発展させるためのルールだ。全体オリエンテーションの後は、それぞれがオンライン上であらかじめ決められた各ルームに入室し、一斉にグループ授業を始める。1グループの生徒数は4~5名程度で、グループ内では大学生や専門家などのサポーターがファシリテーターを務める。

授業冒頭の20分は、生徒たちが自己紹介を行う。学校と名前だけでなく、最近の出来事なども共有して交流を深める。人見知りや恥ずかしがり屋の生徒もいそうだが、話し方はそれぞれ的確で、時には笑いも起こる。オンライン上の不具合にもしっかり対応し状況を確かめ合う様子は、社会人のリモート会議さながらの印象を受けた。

自己紹介の後はいよいよ、60分間の発表・対話だ。例えば、山形県立小国高校の女子生徒は「柿渋で小国町の飲食店を救おう!」という探究テーマの下、塗料や染料、万能民間薬として使われる柿渋の抗菌作用に注目し、コロナ禍で苦しむ飲食店のために、柿渋で染めたのれんやコースターなどを作成した経緯について報告した。研究のきっかけは、20年に奈良県立医科大学が柿渋に新型コロナウイルスを無害化させる作用があると発見したこと。そこで地元にある柿渋に注目し、アイデアを練った。ほかの生徒からも「よく作った」「実現するまでにどんな苦労があったのか」などさまざまな声が上がった。

あるグループの発表の様子。自作の資料を共有して発表を進めていく

一方、別のグループでは、岩手県立大槌高校の男子生徒が「ウミガメ研究のお手伝い」をテーマに報告。こちらのグループは男子生徒同士だからか、互いの意見が重なり合い、笑いも巻き起こるなど対話は白熱。一方で、自分のテーマを語るときの真剣な表情も印象深かった。この後10分の振り返り、15分の感想共有を経て授業は終了した。

授業後には、オンライン上で記念撮影が行われた

他校の生徒同士だからこそ生き生きと意見交換

複数の授業を見学したが、生徒たちは皆、緊張しつつも、前向きな姿勢で取り組んでいた。当初は、他校生同士で本当に授業が活気づくのかと疑問だったが、実際はむしろ他校の生徒に興味があるようで、やり取りも好奇心に満ちているように見えた。中には、サポーターのパスもあって他校の生徒に情報をもらったり、イラストやプログラミングのスキルで協同して何かできないか提案し合う場面も見られた。起塚さんが言う。

「1つの学校内では、自分のテーマに共感してくれる仲間がおらず、探究学習の入り口でモチベーションを失う子も出てしまいます。しかし、他校を探せば同じ興味を持った子はいる。そこで仲間を見つけることで探究への意欲も上がるのです。また、小規模校の生徒たちは子どもの頃から同じメンバーで過ごしていることが多いので、他校生との交流は何よりの刺激になるようです。他校生とは絶妙な距離感を保てますから、むしろ自分の殻を破ったり、本音を話したりするきっかけにもなるんですよ」

カタリバでは、授業から発展してさらにテーマや企画を深めたい、他校生と話したいという生徒に向けて、放課後に希望者が集う会合を行っている。ほかにも、教員向けにも探究学習に関する情報交換会を開催するなど、さまざまな連携活動に取り組んでいる。

今年から本格的に始まった「学校横断型探究プロジェクト」だが、今後はどのような展開を考えているのか。例えば、他校間との連携をさらに深めて、現状で年4回の授業をより日常的な活動にしつつ、将来的に100校ほどが集まれば、教育界に一定のインパクトを与えられるだろう。最後に、起塚さんは取り組みの意義についてこう語った。

「普段接することのない他校の同世代と交流することで、生徒は刺激を受けて意欲的に成長しているようです。他地域の生徒同士だからこそ、生き生きと語れることもある。このようにオンラインを活用すれば、距離の壁を越えられるだけではなく、これまでになかった新しいつながりを生み出すことができます。小規模校であっても、出会いの場、そして、学習の可能性を広げることは十分できますよ」

(文・國貞文隆、注記のない写真:ゲッティイメージズ)