ビジネスデベロップメントの必要性

丸山 最初に眞鍋さん自身が、会計のほうから来たっておっしゃってたけど、今はこの先、宇宙港の開発まで考えていくと、より広い人材が求められていくと思うんですよ。

ただ、どうしてもインフラ的なものの整備というのを、初期段階というか、まだ始まったばっかりなんで、どういう人がこの先、本当に必要になってくるかっていうのは、まだ見えてない部分もあると思うんですけど、業界的には何かまだ、全然手のついてない分野とか、そういうので必要な人材とか企業とかって、もう話にはよく出てくるんですか?

眞鍋 そうですね。技術者が圧倒的に足りないっていうのも、よく言われてます。これは単に、何はともあれ、そういうインフラが完成しないことには、宇宙に簡単に行けないっていうのがあるので、そこに対する技術者が足りないってのは、もちろんあります。

ただ、まぁ私自身が畑違いのところから来た背景も含めて考えると、やっぱり今までの国主導のプロジェクトと、いま民間がしっかりビジネスとしてやっていくフェーズっていうのは、もう全然開発の内容は違うと思ってて。

やっぱり、ビジネスデベロップメントも当然、必要になってくると。ユーザーも増えないと、インフラだけ作っても、ニワトリが先か卵が先かなんですけど、インフラ作った先にユーザーがいないと、やっぱりそれは持続可能性がないと思いますし。

そうなると、そのインフラを前提にしたサービスを作っていく人がどうしても必要で、やっぱりこれって歴史がつながってると思ってて。

産業廃棄物の処理業者が進出するかも?

眞鍋 ITでお金を生み出した先に、いま通信衛星というのが生まれてきたとすると、そのサービスがよりいっそう、使い勝手のいいものになるっていうのが、今の通信衛星の大量打ち上げにつながってるわけなんで、そこの循環が起きないといけないなと思ってます。

つまり、衛星データを利用するとかですね、そういったサービスが、もっと活発になっていく必要があるなっていうのがあります。

あとは、そういうのを、宇宙って未開の地なので、普通の人、宇宙とそれほど距離が近くない人たちにとっては、宇宙行って何するのとか、宇宙に行けてすごいなんか楽しそうなんだけど、別に自分には関係ないよねっていう意識が、まだあるんじゃないかなと思ってて。

そういう啓蒙活動は当然必要で、なぜ啓蒙活動をする必要があるかっていったら、たぶん、もう宇宙というのが、私の中では、業界にいると陸・海・空と同じ扱いなんです。宇宙産業っていうのは、私自身はピンときてなくて、地上産業とは言わないので。

要するにそれは、経済領域であって、いろんな産業がそこで活動できるんですよね。だから 冒頭言ったように、われわれは輸送サービスだし、他の会社は通信サービスだし、別の会社は、もしかしたら産業廃棄物の処理業者かもしれないしっていう。

いろいろ地上である産業が、宇宙空間に入り込めるはずなんで、そういうあらゆる産業の人たちが、自分たちが宇宙空間で何するんだっていう視点で入ってこられる、それぞれの産業の中で、ビジネスデベロップメントできる人たちっていうのが必要なんじゃないかなと。

ITで勝ち負けが決まってしまった

丸山 現状、日本の技術力とか、そういう人材とかを投入して、世界と勝負していくというか、日本をもし発展させる可能性があるとしたら、やっぱり宇宙を開発していく産業だと僕は思ってるんですね。

島国であること自体が、そんなにデメリットにならなくなってくるっていうのは、この先、ものすごく大きなメリットだと思ってます。

そういう意味では、いろんな人材とか分野の話を聞きましたけど、いろんな人が入ってきて、実際、広げていくと思うんですけど、日本の今の競争力っていうのは、眞鍋さんから見るとどうですか? 世界というか他国と比べて、どのあたりにあると思いますか?

眞鍋 経営資源ベースで比較すると、人・物・金・情報というのがあって、あとそれにプラスで法律ってのがあるんですけど、やっぱりお金の面では絶対に勝てないですね。どう考えてもITで勝ち負け決まっちゃったっていうのもあって、お金で勝とうとしても勝てないんで。

ただ、技術力、モノに対する技術力は、あとはそれぞれの人々の性格もあるんだと思うんですけど、やっぱり日本の技術力はそうとう高いと思うし、きめ細かい技術が至る所に見えて、例えば、本当に部品1個ずつ取っても、すごく精度が高い部品なんですよね。

「技術の横展開」に勝機

眞鍋 じゃあ、モノとしては引けを取ってないと、でもお金がないよねってなったときに、じゃあどうやって戦うんだろうっていったら、やっぱりチーム、いろんなスポーツの世界でも言われてますけど、日本の強みってチーム力だと思ってて。

われわれ自身が、川崎重工さんとかIHIグループさんとかと付き合ってるのも、やっぱりそれぞれ単体では勝てないけど、それぞれの強みを生かしたチーム戦にすれば、十分勝てる可能性があって、しかも、まぁそれもお金に関して言うと、さっき言ったように、部品レベルで技術力が高いってことは、その部品自体も横展開で売れるんですよね。

SPACE WALKERは、去年からタンクの製造販売事業も始めてるんですけど。ロケットで生まれた世界トップレベルの軽量のタンク、それから世界がまだどこも実現できてないマイナス200度とかに対応する、極低温の液体用のタンクの開発もやってて、特許も取ってるんですけど、そういう技術を、例えば今、地上で困っている水素社会に向けた水素ガスの貯蔵タンクとか、液体水素を貯蔵するタンクとか、そういったところにも横展開できる。

そういうやり方は、実は日本で昔、自動車産業がそれやってたんですよ。デンソーっていう会社は、もともとトヨタの1事業部門でしたけども、そのコンポーネントで最強と呼ばれている。ホンダさんもバイクのエンジンからスタートしてますので、車っていう総合技術だけで戦ったんじゃなくて、そういう1個ずつのコンポーネントでも、横展開しながら戦ってたんで。

今の日本の状況を見ると、そういう技術勝負をして横展開しながら、ロケットっていう総合技術で勝ちにいくことはできるんじゃないかと思います。

丸山 今だと、そうやって技術が他の業界とかでも使える、他のところにも横展開できるって、 NASAの技術力を無条件で信じ込んでいた世代の、われわれの世代からすると、やっぱりそういうのがあるんだ、宇宙で使えるってことは、地上でもっと使えるんだっていう、なんか夢のある話でもあるんですけど。

※対談の様子は、YouTubeチャンネル「探究TV / 東洋経済education×ICT」で配信中

丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)
ジャーナリスト、国学院大学学術資料センター共同研究員
1977年宮城県生まれ。国学院大学卒業。同大大学院修了。出版社勤務などを経て独立。テレビ番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を取材するフリージャーナリストとして注目を集める。漫画の原作を手がけるほか、YouTubeチャンネル『丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー』を配信するなど多方面で活躍。『世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方』(産業編集センター)など著書多数

 

眞鍋顕秀(まなべ・あきひで)
SPACE WALKER 代表取締役CEO、公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)へ入社。監査業務やIPO・M&A業務などに従事した後、12年に独立開業し、大手企業の経営コンサルから個人の開業・法人設立の支援まで、幅広い企業サポートを行う。17年に宇宙関連ベンチャー「SPACE WALKER」を共同設立。18年より現職

 

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