バスか徒歩か…通学方法の違いがもたらす、子どもへの影響と「格差」とは 新体力テストだけでは見えない「将来のリスク」

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2015年、文部科学省は約60年ぶりに公表し新たな学校統廃合に関する手引きを公表した。その「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」では、小学校における望ましい学級数を1学年2学級以上、中学校は9学級以上などと示した。小規模校のデメリットも示された一方、学校統合による通学時間や距離も設定。だが結果として、全国的に子どもの通学距離は延び、バス通学者が増えている。通学方法と子どもの変化を調べる岩手大学の清水将氏に、今の実態と向かうべき方向を聞く。

体力でも評定平均でもない、「有意な差」が生じた点は

岩手大学で准教授を務める清水将氏は、主に岩手県内を中心に、通学方法と小学生の体力や健康についての調査を続けている。岩手県教育委員会公表の2022年までの調査を活用して取りまとめた最新のデータから、同氏はさまざまなことが見て取れると語る。

清水将(しみず・しょう)
岩手大学教育学部准教授(岩手大学大学院教育学研究科兼務)
筑波大学大学院人間総合科学研究科学校教育学専攻博士課程単位取得満期退学。2012年より現職、2015年から兼務に。小規模学校での教育や異学年合同・複式授業などを研究している
(写真:本人提供)

「岩手県を『沿岸エリア』、内陸に入った『中山間地エリア』、新幹線などの鉄道や東北自動車道など幹線道路に沿った『その他エリア』に分け、各エリアの小学生のデータを比較しました」

「その他エリア」は比較的人口が多く、県内では都市部に当たる地域だ。「沿岸エリア」は2011年の東日本大震災で津波被害を受けた地域も含まれており、「中山間地エリア」は山間の過疎地域も擁する区域だそうだ。独自に実施した調査では、抽出した小規模校2校の協力によって学力と新体力テスト、生活習慣の相関を分析した。

「徒歩通学者の1日の平均歩数は約1万1130歩で、バス等の通学者の平均歩数は約8160歩。この3000歩の差には、明らかに通学方法が影響しているでしょう。ただ8000歩でも大きな不足はないと思います。また、運動量と学力の相関が論じられることもありますが、この調査では通学方法による学力や新体力テスト合計点の差もありませんでした。この点にはとても安心しました――バス通学か否かは完全に大人の社会の都合で、子どもたちには責任のないこと。それが彼らの学力などに影響していないことは、本当にホッとしましたね」

また、意外なことに新体力テストの結果にもさほどの差はなかったという。では、どんな通学方法をとっていても、子どもの体力には影響がないと考えていいのだろうか。だがその楽観的な見方を清水氏は否定する。

「新体力テストは主として行動体力を測定するもので、その合計点は技能の高さを示していると考えることもできます。言い換えれば防衛体力、健康の度合いを測るには、肥満度などにも注目する必要があるということ。そして残念ながら、その度合いには有意な差が表れていました」

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