「円安アレルギー」はアメリカの首を絞める 「反為替操作策」のTPPへの影響は?

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ジェイコブ・ルー財務長官は共和・民主両党の上院指導者に宛てた5月19日付の公開書簡で、為替操作の報復条項は貿易相手国に受け入れられないと指摘。TPA法案に条項が盛り込まれた場合は、大統領に拒否権発動を進言すると述べていた。

為替操作は太平洋沿岸に事実上、蔓延している。日本では、停滞する経済成長を刺激するために日本銀行が通貨供給量を増やしている。中国の人民元は基本的に、対ドルの固定相場を維持している。マレーシア政府は通貨リンギットを守るために外為市場に介入する。

為替操作の問題に、今回ほど米議会が関与することはめったにない。TPA法案が成立すれば大統領には最大6年間、貿易交渉権が付与される。現政権と次期政権は、政府が他国と合意した通商協定について、議会に修正を認めずに賛否だけを問うことができる。

直近では、年内の締結を目指すTPPの交渉において、TPAは不可欠な権限とされている。TPPの交渉にはカナダやチリ、日本、オーストラリアなど12カ国が参加、世界経済の40%を包括する。

米国も「為替操作」の矛先に

為替操作に反対する人々は、為替政策を、関税障壁や知的財産権、市場アクセスと同じレベルの通商問題に格上げする格好の機会とみる。議会民主党に大きな影響力を持つリベラル派のシンクタンク、米経済政策研究所(EPI)は2月に発表したリポートで、米国の対日貿易赤字が2013年に783億ドルに達した「最も重大な要因」は為替操作だと主張。拡大する貿易赤字の影響で、2013年に全米で推定89万6600人の雇用が失われたとする。

しかし、オバマ政権の高官や多くのエコノミストは、グローバル市場の反動を懸念する。TPPで為替に影響を与えるような政策介入を禁止することになれば、米政府の政策がTPP参加国から抗議されかねないからだ。

たとえば、赤字財政支出によって需要を喚起する景気刺激策や、経済成長を加速するための金融緩和策は、意図的に為替市場を誘導する目的ではないが、実際にドル相場に影響を与えることになる。

「2008年に米議会と大統領、連邦準備理事会(FRB)は、大恐慌の再来を回避するために思い切った決断を下した。しかし多くの国が、一連の政策は為替操作にあたると間違った理解をした」と、ルー財務長官は19日付の書簡で述べている。TPA法案に為替操作への報復条項が盛り込まれれば、「(政府が)米経済を守るために必要な措置を取る権限がリスクにさらされ、為替政策の不公平な慣習に立ち向かおうとする広範な努力にとって逆効果を招くだろう。そのようなリスクを取ることはできない」

それ以上に深刻な問題は、TPA法案に為替操作を防ぐ条項を加えたら、ほかの国々が通商交渉から離脱する可能性があることだ。

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