幼児教育も「子ども主体」に舵、待機児童問題を経て幼稚園・保育所も質の時代に 非認知能力の重視は全国的なムーブメントに

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――今、大きく変わろうとしているわけですね。何がきっかけになったのでしょうか。

転換点は1989年でした。このとき学習指導要領の改訂が行われ、それまでの学力偏重が見直され、社会の変化に主体的に対応できる、心豊かな人間の育成を図ることが基本的な狙いとされます。いわゆる「ゆとり教育」です。

それと同時に幼稚園教育要領も改訂され、幼児教育界では「倉橋惣三に帰れ」がスローガンの1つにもなりました。子ども主体を提唱した倉橋の考えに帰れというわけで、子ども主体の幼児教育を目指すことになったわけです。

小1プロブレムが「幼児教育側の問題」とされた訳

――しかし、いわゆる「ゆとり教育」は学力が低下するとの批判を受けて、またもや大転換することになります。幼児教育に影響はなかったのでしょうか。

幼児教育が問題にされたのは、1990年代後半ごろから「小1プロブレム」が顕在化してからです。「ゆとり教育」批判と時期は重なっています。小学校に入学してから学校生活に適応できない子が増えてクラスが荒れてしまう、これが「小1プロブレム」です。そのときにスケープゴートにされたのが幼児教育でした。

幼児教育の場で子どもを自由にさせているから、小学生になっても授業中に座っていられないし、人の話も聞けない、というわけです。小学校側から強い批判があったし、同じような見方をメディアもずいぶん発信していました。

そういう誤解が生まれたのは、2つの理由があったからだと思います。1つは、幼児教育を小学校の準備としか考えないで、教育と子どもらが自分らしさを発揮することに小学校が合わせられなかったことです。もう1つは幼児教育側の問題として、自由ということについて子どもの好き放題、やりたい放題にすることだと考えている部分があったことでした。

――小1プロブレムで子ども主体が揺らぐことになるわけですね。子ども主体は完全に否定されたということでしょうか。

小1プロブレムの原因が幼児教育にあるとの見方は、今では間違いだったといわれています。理由があいまいなので、わかりやすく幼児教育の責任にされてしまったところがあります。

そして幼稚園教育要領の2017年改訂で、「幼児の自発的な活動としての遊びを生み出すために必要な環境を整え、一人ひとりの資質・能力を育んでいく」と子ども主体が改めて明記されます。同時に改訂された「保育所保育指針」と「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」でも、同じく子ども主体が方針となります。

大豆生田啓友(おおまめうだ・ひろとも)
玉川大学教育学部教授
青山学院大学大学院文学研究科教育学専攻修了、青山学院幼稚園教諭などを経て現職。日本保育学会理事、日本こども環境学会理事、こども家庭庁「こども家庭審議会」委員および「幼児期までのこどもの育ち部会」委員(部会長代理)、文部科学省「幼保小の接続期の教育の質的向上に関する検討チーム」委員(2023年3月まで)、厚生労働省「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」委員(座長代理、2021年3月まで)。『SDGs時代の保育実践アイデア帳』(共著・フレーベル館、2023年11月発行予定)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)、『あそびが学びとなる子ども主体の保育実践 子どもと社会』(編著・学研)、『0~5歳児 子どもの姿からつくる これからの指導計画』(編著・チャイルド本社)など著書多数
(写真:大豆生田氏提供)
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