時間確保につながった例も、GIGA構想で「ICT活用」進んだ自治体や学校の特徴 「社会経済的背景の違いによる差」の縮小も課題

GIGAスクール当初から取り組みにばらつきがあった
──2019~22年度の国立教育政策研究所プロジェクト研究 「高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究」において、「公正で質の高い教育を目指した ICT 活用の促進条件に関する研究」を担当されました。この研究の背景にはどのような課題意識があったのでしょうか。
GIGAスクール構想が打ち出された19年当時、ICT活用の取り組みは自治体によりばらつきがありました。そうした中、1人1台端末の環境を効果的に活用した授業革新は自治体や学校によって進捗に差が出てくるかもしれない。そんな懸念が出発点となっています。
──「公正で質の高い教育」とは。
教育において「公正」という言葉は、OECD(経済協力開発機構)などの国際機関や諸外国ではよく使われており、主に「自律的な社会参加に必要な基本的な教育機会の提供(必要充足)」と「個人の特性や生育環境の多様性が要因で生じる教育機会の不平等の是正(機会の平等)」といった意味で使われています。
日本でも、子どもの貧困問題の顕在化や外国にルーツを持つ子どもの増加など、政策において公正が重視されるべき状況になってきています。ICTも単に使って終わりではなく、公正で質の高い教育が目指されるべきだと考え、この研究では次のように定義しました。ここでは「公正」という言葉に、お互いを尊重し合う関係づくりや対話を通じて必要充足や機会の平等を目指すという意味もあることを重視しています。
・すべての子どもたちが個々の多様な関心や学び方をお互いに尊重し合うとともに、個々の特性や背景に応じて必要な学びの資源や支援を活用しながら、主体的・対話的に深く学ぶ機会とプロセスを創造し、保障する教育
・国家、地方自治体、学校、教職員等の連携と協働による資源配分や支援を通じて実現する教育
こうした教育を目指すICT活用はどのような条件によって促されるのか。無作為抽出した教育委員会および小中学校の校長を対象に実施した「全国調査」と、児童生徒と教員を対象にした「政令指定都市調査」という2つの量的調査(ウェブ調査)を行って検討しました。
見えてきた「差」と「ICT活用促進のカギ」とは?
──調査の結果、ICT活用の差は見られましたか。

国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス博士課程修了(PhD in Social Policy)。日本学術振興会特別研究員、文部科学省生涯学習政策局調査企画課専門職、国立教育政策研究所国際研究・協力部主任研究官、総括研究官を経て、2021年より現職。専門は不平等、貧困、教育に関する社会政策。データを用いて実態を把握しながら、多様な個人を尊重する平等な社会を築くための、政策に応用可能な考え方について研究している
(写真:卯月氏提供)