コロナ4年目、GIGA3年目…学校の変化

今月、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に移行された。感染拡大から4年目を迎え、ようやく社会全体が正常化に向けて動き出そうとしているが、この間、学校現場は大きく変わった。

感染対策上、行事が縮小されるなど学校生活がさまざまな制約を受けてきたのはさることながら、何より大きかったのはGIGAスクール構想が前倒しされたことではないだろうか。公立の小・中学校に1人1台の端末と高速大容量通信ネットワークが整備され、授業の様子が様変わりしたという学校は多い。

だが、2022年度に実施された「全国学力・学習状況調査」質問紙の結果を見ると、PC・タブレットなどのICT機器を「ほぼ毎日」「週3回以上」「週1回以上」使用している児童生徒が8割超である一方、「月1回以上」「月1回未満」という回答も小学校で16.6%、中学校で19.2%だった。教員がプロジェクターや電子黒板などを活用した授業を1クラス当たりどの程度行ったかという質問でも、小・中学校ともに「ほぼ毎日」と回答した学校が95%以上あったものの、「月1回未満」と回答した学校も1.7%あり、学校間、教員間の格差があるのも事実だ。

そこで東洋経済新報社では、教員600人を対象にアンケート調査を実施した。日本が学校の授業におけるICTの活用で、OECD(経済協力開発機構)加盟国中最下位となったPISA(国際学習到達度調査)2018から5年。目下のICTの活用はどのような状況にあるのか。

約3割がGIGA端末に不便を感じている

まず調査では、GIGAスクール構想で整備された端末(以下、GIGA端末)によって、便利になったかどうかについて聞いている。「とても便利になった」(20.2%)と「一部便利になった」(52.2%)と肯定的な評価が70%以上に達したが、「あまり効果がない」(17.8%)、「一部不便になった」(5.3%)、「とても不便になった」(4.5%)という否定的な評価も30%近くあった。

GIGA端末に対しての不安や不満を聞いた設問では、「学校のネットワーク環境が脆弱」(36.7%)、「不適切使用への対応が大変」(36.5%)、「児童・生徒にPCやタブレットの使い方について教えるのに苦労する」(30.0%)という回答が上位を占めた。

「児童・生徒配布の端末に厳しい制限があり、クラウドが使えないなど思ったよりあまり活用できない」(14.8%)、「家庭への持ち帰りができず、家庭学習との一体的な活用ができない」(10.0%)という回答もあった。GIGA端末の使用については学校や地域によってルールが異なるが、運用をしながら改善を重ねることが、便利になったと感じる教員を増やすことにもつながりそうだ。

6.2%と少数意見ではあるが「とくに不安や不満なことはないが、そもそもPCやタブレットは本来使いたくない」という回答もあった。おそらくこう回答した教員は、GIGAスクール構想自体に不安や不満があるのだろう。

学校や地域単位での情報共有に課題

GIGAスクール構想のスタートから3年が経過し、実践を積み重ねてきた学校や教員には知見や経験が蓄積されてきている。調査では、学校単位や地域単位で、児童・生徒のPCやタブレットのトラブルや教え方の共有などがされているかどうかについても聞いている。

「学校単位で共有される仕組みがある」が50.5%で半数を超えてはいるものの、「共有はまったくされていない」(14.5%)、「共有はまったくされていなく、個々人でしている」(22.0%)という回答が合計で36.5%にも達していた。少数ながら「地域単位で共有される仕組みがある」(5.2%)という回答もあるが、「学校単位、地域単位で共有されて支援が充実している」という回答はわずかに6.7%だった。

「共有はまったくされていない」という回答をした学校(教員)は、共有する必要がないと考えているのか、あるいは共有する仕組みがないからできていないと考えているのか。いずれにしろ“教員”も誰一人取り残すことなくICT活用を進めていくには、ノウハウを共有する仕組みは必須なのではないだろうか。

GIGA端末で教員の仕事はどう変わったか?

授業でGIGA端末を使うようになり、教員の仕事がどういう影響を受けたかという設問は、業務内容別に回答するスタイルで、結果はなかなか興味深い。

まず「児童・生徒との連絡」業務がどういう影響を受けたかという設問では、全体としては「効率的になった」(15.2%)、「ある程度効率的になった」(44.8%)と肯定的な評価が60.0%に達している。けれども「ある程度非効率になった」(9.3%)、「非効率的になった」(2.0%)という否定的な回答も1割強ある。

「保護者との連絡」についても、「効率的になった」(12.3%)、「ある程度効率的になった」(39.3%)と肯定的な評価が過半数を超えた。こちらも「ある程度非効率になった」(10.0%)、「非効率的になった」(2.7%)という否定的な回答が1割強ある。

児童生徒や保護者との連絡は、ICT端末を使ったほうが効率的のように思えるが、非効率に感じる教員も一定数いることは見逃せない。学校現場でも、このように感じている教員がいないか。つねに注意しながら、理由を明らかにして効率的な活用ができるようサポートをしていきたいところだ。

連絡のようなコミュニケーション手段としての使い方で見ると、「アンケート」では「効率的になった」(24.2%)、「ある程度効率的になった」(45.0%)と7割近くが負担感の軽減を実感していた。簡単にアンケートが作れるフォームの機能や、その結果を瞬時に一覧で共有できるのはICTならではといえるだろう。

同じく「授業のふりかえり」でも「効率的になった」(9.3%)、「ある程度効率的になった」(42.0%)と、過半数が肯定的な評価だった。

「オンライン授業」「宿題」「協働学習」「教育全般」について聞いた設問の回答も、「効率的になった」と「ある程度効率的になった」という肯定的な評価の合計が過半数に達している。

なお、いずれの設問でも「以前と比べようがない」という回答が2〜3割強あり、“紙”のやり取り中心で、GIGA端末がなかった時とは明らかに異なる変化が起きていることもうかがえる。

ただ、「テスト」に関しては肯定的な評価の合計が29.8%とかなり低い。学習範囲や学力の定着を図るためのテストをGIGA端末を使ってどのように行うか。タイピングなどを含む児童生徒の端末活用能力にも、まだ差があると考えられ、公平性が重視されるテストでの活用には慎重なのかもしれない。

また、教科書とPCやタブレット端末の重さを比べて「効率的になった」「ある程度効率的になった」という回答の合計も32.3%と過半数を大きく割っている。デジタル教科書や教材が、今はまだ限定されていて、端末も教科書も両方持っていかなくてはならない状況のため、こちらも今後の動きに注目したい。

この調査では「PCやタブレット端末の中に入っている教育プラットフォーム、アプリケーション」について何を使っているか具体的な製品名と、その製品のいいところを記述式で回答する設問も設けている。

プラットフォームやアプリケーションについては多様な製品名が出ているが、Google ClassroomやMicrosoft Education、それらの関連アプリに加えロイロノート、Classi、Qubena、スタディサプリ、ミライシード、Google Jamboardなどが挙がっているほか、「わからない」という回答も多かった。それらの製品の「いいところ」については「使いやすい」という回答が多いが、「悪いところ」については「使いこなせない」「使い方を覚えるのが大変」「操作が直感的でない」「機能が多い」、逆に「機能が少ない」などの意見が多かった。

GIGAスクール構想がスタートして3年。学校間や教員間で活用に差があるのは当然として、着実に学校現場にICTの活用が浸透していることが実感できる調査結果だったといえるのではないだろうか。今後も運用をしながら改善を重ねつつ、技術の進化も速い分野だけに、つねに変化し続けていくことも求められそうだ。

調査概要
GIGAスクール構想で児童・生徒1人に1台配布された端末に関する調査
対象:小学校、中学校、高等学校教員600名
平均年齢:51.4歳
対象エリア:全国
調査日:2022年12月

(文・崎谷武彦、編集部 細川めぐみ、注記のない写真:mits / PIXTA)