休日の「部活動の地域移行」25年度末までに達成の目標は削除

中学校では当たり前のように行われてきた部活動。だが、教員の長時間労働問題を深刻化させる大きな要因と指摘されている。さらに、生徒数の減少で、野球やサッカーなどの競技チームをつくるのに必要な部員数を学校単位では満たすことができず、複数校の合同チームとして大会に出場するケースも出てきている。

これまでのような部活動を続けることが難しくなる中、「持続可能な」部活動に向けて、中央教育審議会や国会からは、部活動を学校単位の取り組みから地域単位の取り組みにしていく「部活動の地域移行」の方針が示された。運動部を管轄するスポーツ庁、文化部を管轄する文化庁の有識者会議は、2023年度から3年間を「改革集中期間」として、まず休日の部活動の地域移行を25年度末までをメドに実現、平日についても地域の実情に応じた移行の推進を提言していた。

しかし、両庁が昨年12月にまとめた最新の「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」では、この25年度末の“達成期限”がなくなった。当初案は、有識者会議の提言に沿って“達成期限”があったが、パブリックコメントの意見などを受けて削除。「改革集中期間」は「改革推進期間」に改められるなど、達成期限に関する表現はトーンダウンした。

永岡桂子文部科学相は昨年12月の記者会見で、23年度からの部活動地域移行の取り組みはしっかり進めるとしたうえで、達成目標時期については「議論、検討しながら進める」「今現在、25年度末に終了というようなことは考えていない」と述べた。

ガイドラインの当初案に対するパブリックコメントを、スポーツ庁などがまとめた「『学校部活動(中略)総合的なガイドライン(案)』に関する主な意見の概要」では、冒頭で「生徒や保護者の不安に丁寧に応え、顧問の教職員を含めた合意形成を図った上で移行すべきであって、拙速に移行するものではない。自治体としても、3年間の移行達成は現実的に難しい」という意見を取り上げている。

25年度末の休日部活動の地域移行達成については、現場からも、教員以外の指導者を確保するのが困難なことに加えて、教員の“ボランティア”に支えられてきた指導を外部委託することで見込まれる保護者の負担増に対して理解が得られるのか、といった懐疑的な声があったのも事実だ。

では、生徒の保護者は部活動についてどう考えているのだろうか。

現状でも部活動に一定の負担感を感じている

まず、部活動の現状から見てみる。生徒数の減少により廃部となる部活動も増えていて、2017年度の「運動部活動等に関する実態調査報告書」(スポーツ庁)では、16年度以降に運動部(体育会系)の1部以上の休廃部があったと答えた公私立中学校は13.9%あり、多様な種類の部活動を存続することは難しくなっているが、今回の調査で「子どもが入りたい部が中学校にあった」は79.7%、「なかった」は11.7%だった。

部活動のメリット(複数回答可)については、「仲間ができる」(68.3%)、「体力・精神力が付く」(57.7%)、「社会性・協調性が身に付く」(48.3%)、「上下関係が学べる」(42%)、「達成感を感じられる」(38%)などが上位を占めた。「知識や技術を習得できる」は25.3%、「安価な費用で専門性が身に付く」は6.7%で、競技力向上よりは集団的活動から得られる対人関係能力醸成に対する期待が大きい傾向が示された。

大会での成績を追求して、長時間の厳しい練習が課されるなど“過熱”が指摘されることもある部活動の活動時間については、「適切」が51.7%、「多すぎる・やや多い」が計27.4%で、逆に、「少なすぎる・やや少ない」とする回答は17.3%だった。

一方で、2018年策定のガイドラインで、日本スポーツ協会の研究に基づき、平日は2時間程度、休養日を週2日以上設けることという基準を示されている活動時間について、地元の教育委員会や学校で時間規程が「ある」は40.7%、「ない」は20.7%、「わからない」という答えが38.7%を占め、活動時間についての保護者の関心は低い傾向が見られた。

子どもの部活動について保護者が負担を感じること(複数回答可)は
「お弁当の用意」(39%)、「日常の活動や練習試合などの送迎」(34.3%)、「ユニフォーム等の洗濯」(26%)など子どものサポートに関することが上位を占めた。一方で「合宿など遠征への帯同」(13%)、「差し入れの準備」(13%)、「活動費のなど会計管理」(12%)といった回答もあり、一部の保護者は部活動の運営協力を担っていることがうかがえた。

部活動で経験した悩みについては、「家族で過ごす時間が減った」(23%)に次いで、「交通費や合宿費などお金がかかる」(18.7%)、「保護者の協力がなければ成り立たない」(16%)も多かった。

部活動の出費に対する負担感はどうだろうか。「負担を感じない」「まったく負担に感じない」が計37.4%である一方、「非常に負担を感じる」「負担を感じる」も計34.7%で、約3分の1の保護者が出費に負担を感じていた。

実際の出費額(年間)は、「1万円以上~5万円未満」(36.3%)、「1万円以下」(25%)、「5万円以上~10万円未満」(17%)が大半を占めたが、「10万円以上~15万円未満」(7.3%)、「25万円以上」(1.7%)という回答もあった。

部活動の地域移行「教員の負担軽減」が理由の賛成は2割弱

では、部活動の地域移行という方針に対して保護者はどう思っているのだろうか。賛否についての回答は、賛成が43.3%で半数に満たなかった。反対は12%だったものの、わからないが約半数の44.7%を占め、保護者の戸惑いをうかがわせている。

部活動の地域移行については、教員の負担軽減という目的以外に、ガイドラインでは、地域のスポーツクラブ活動になることで、専門性を有する指導者が指導すること、中学生以外の世代も含めた生涯を通じた活動ができる環境が整うことなどをメリットに挙げている。

保護者アンケートでも、地域移行に賛成した理由として、「専門的な指導が受けられる」(33.8%)、「希望する種目・活動を続けられる」(26.2%)、「学校の先生の負担が軽減される」(18.5%)、「学校を卒業しても続けられる」(14.6%)が上位を占めた。

部活動顧問をする教員の負担については、「教員の長時間労働の要因が部活動にある」こと、「部活動の顧問はほぼ無償で行っている」こと、「部活動の顧問は強制的に教員に割り当てられ、競技経験のない教員が指導することもある」ことを約7割の保護者が「知っている」と回答した。

一方、地域移行に反対する理由は「指導料などのお金がかかる」が38.9%で最多だった。「送迎をしなくてはならない」も25%で、保護者側の負担増への懸念を示している。「地域に受け皿となるクラブや企業がない」という回答も25%だった。賛否を明らかにしなかった保護者が半数近くを占めた結果を鑑みると、保護者の理解を得られないまま地域移行すれば、生徒間の格差など新たな課題を生むおそれがある。

心を病む教員も多い学校の労働環境問題の深刻さ、実質的に無償の時間外勤務の指導に頼る部活動のあり方の歪みといった現状を踏まえれば、できるだけ早期の部活動の地域移行実現が必要であることは大前提だ。解決を先送りしないためにも、国・地方の教育行政には、部活動の地域移行の意義について、保護者や地域の理解を早急に得る努力が求められているといえそうだ。

ここでは紹介しきれななかった「今後の部活動のあり方に対する考え方」についてPDFにまとめた。「専門性のある外部の指導者に委託すべき」「先生の負担を減らすべき」「時間外手当を支払うべき」「土日の部活は不要」など、さまざまな意見が見られた。回答も原文のまま全文掲載しているため、保護者の本音がよくわかる内容になっている。無料PDFのダウンロードはこちらから。

調査概要
部活動に関する意識調査
対象:中学生の子どもを持ち、かつ部活動に所属している保護者300名
平均年齢:44.5歳
対象エリア:全国
調査日:2023年4月

(文・新木洋光、注記のない写真:吉野秀宏 / PIXTA)