約4割の学校で教員不足

今年1月に文部科学省が発表した「『教師不足』に関する実態調査」では、全国の公立小学校、中学校、高等学校、特別支援学校のうち、1897校で2558人の教員不足が発覚した。不足した学校数1897校という数字は、全体の学校数からすると5.8%であり、大したものではないように感じるかもしれないが、事態は決して楽観視できるものではない。

文科省の調査は昨年実施されたものであったが、元教員らでつくるグループ「#教員不足をなくそう緊急アクション」が行った今年4月の始業式時点での調査(公立小・中学校の副校長・教頭にアンケート調査/回答数1070件)では、約2割の公立小・中学校で教員不足が起きたとされている。

文科省の調査と一概に比較はできないものの、状況はよりいっそう悪化している可能性もある。「#教員不足をなくそう緊急アクション」が行った調査では、昨年度を通じて1度でも教員不足が起きたかも聞いているが、この質問になると、教員不足が起きたとした回答は約4割に跳ね上がる。教員不足は、もはや一部の学校の問題ではない。

教員不足によって、学級担任が決まらずに教頭などの管理職が担任を代行するケースはまだ救いがある。管理職の負担が大きくなってしまうものの、学びは止まらないからだ。だが中には「担任がいない」状態が続くクラス、授業に影響が出ている学校もあり、早急な対策が必要である。

7月から失効した教員免許が復活

そんな教員不足対策の1つとして文科省が呼びかけているのが、教員免許を持ちながら一般企業などに勤めている社会人の転職だ。

今年5月には、教員免許の有効期限を10年と定める「免許更新制」が廃止され、この7月からは失効してしまった免許も復活することになった(教員免許更新制導入後に初めて免許状の授与を受けたいわゆる新免許状には有効期限があるが、有効期限を超過していても再授与申請手続きを行うことで有効期限のない免許状を受けることができる)。

もともとは現場教師の免許更新時の負担を減らす目的で行われた制度変更だったが、ペーパーティーチャーに教壇に立ってもらうよう呼びかける面でも有利に働くはずだ。

ただ、実際問題として教員免許保持者はどのように感じているのだろうか。そこで東洋経済新報社では、教員免許を持ちながら企業などで働く450人を対象にアンケートを実施した。教壇に立つ意思があるのかなど、その本音を探った。

今回、アンケートに協力してくれたのは、小学校の教員免許を持つ150名と中学・高校の教員免許を持つ300名合わせて450名である。現在の職業は約6割の290名が会社員であり、そのほかパート・アルバイト従事者が8.9%の40名、専業主婦・主夫が7.8%の35名、公務員が7.3%の33名、自営業6.4%の29名などである。

まずは、そもそも「なぜ教員免許を取得したのか」。その動機を確認する質問では、突出して多かった回答が「とりあえず取っておこうと思った」というものだ。

そのため「教員採用試験を受けていない」が35.8%もいたが、「教員採用試験に受からなかった」という人も16.4%もいた。多かったのは「最初から教員志望ではなかった」(15.1%)、「一般企業への就職のほうが魅力的だった」(16.9%)だ。

「機会があれば、教員として働いてみたいか」の質問には「いいえ」の回答が57.6%と半数を超えた。

教員として働いてみたい人42.4%

教員として働く意思のない人が半数以上いたわけだが、それはどのような理由なのか詳しくみていこう。教員として働きたくない理由を聞くと、いちばん多い回答が「学校で働くのは過酷なイメージだから」というものだった。

「その他」を選んだ人の中には、「教育実習で教員の大変さを実感したから」「実際に過酷で自分には務まらなかったから」などの回答があり、実際に教員として働いた経験から「教師には向いていない」と判断している人もいた。

一方で、教員として働いてみたいとする人が42.4%もいたことは、転職者を呼びかける取り組みに希望を感じられる結果ではないだろうか。

教員として働いてみたい理由としても「社会人としての経験を教育現場で生かしたい」「次世代を担う人材を育てたい」「学校教育に興味があるから」といった回答が多く、教員となった場合の熱意を感じさせてくれる結果となった。

「その他」の中には、意外にも「部活動やクラブ活動の顧問をしてみたい」という回答が多く見られた。現在、部活動については教員の負担が大きすぎることが問題になっており地域移行が検討されているが、教員として働く際の魅力として感じる人も少なからずいるようだ。

ペーパーティーチャー講習に力を入れる自治体も

もちろん、教員に興味がある人がいるといっても、未経験者が先生として教壇に立つにはサポート体制も充実させる必要がある。今回のアンケートでも、いきなり一人前として教壇に立つのではなく補助教員としてスタートすることや一定の研修期間を望む意見が多かった。

そこは、自治体でも努力をしていて、ペーパーティーチャー講習を実施する自治体も増えてきた。例えば神奈川県や大阪府箕面市では、最新の学校の様子や免許更新制度の詳細などが学べる研修を用意し、研修講座後には臨時的任用職員・非常勤講師登録会などを実施している。また神戸市などは1週間の集中研修を実施しており、現在の教育課題が学べるほか、近年導入された ICT 教育に関する知識・技能が習得できる。もちろん研修後には、欠員状況に応じた教員としての採用までをサポートする。

アンケート結果や自治体の取り組みを見ていると、教員免許を持った人に転職を呼びかけることは確かに教員不足解消の一助になるのではないかと思う。しかも、免許が失効していても必要な手続きを行うことで有効期限のない免許状を受け取れるようになったことを知らない人も、まだまだ多くいそうだ。今回行った調査で免許が失効していた51人に聞いたところ、76.5%が「知らなかった」と回答している。

ただ、やはり教員の労働環境の改善や給与体系の見直しといった根本的な課題の改善も併せて行っていくことが必要だろう。せっかく教育現場に社会経験を携えて転職を決めたとしても、労働環境があまりにも過酷では長続きすることは難しい。そして、何よりも現在学校で踏ん張ってくれている先生方の負担を減らさなければならない。

調査では「あなたのような教員免許状を持つ社会人に、学校現場で働いてもらうにはどうしたらよいでしょうか」とも聞いている。そこで多かったのは「教員の労働環境向上」を訴える意見だ。教員の授業以外の負担軽減や給与水準の見直しを求める声、分業化の提案などもあった。そこでここでは紹介しきれない生の声をPDFにまとめた。回答も原文のまま掲載しているため、何に着目して教員の社会人採用を促進すればよいのかがわかるに違いない。PDFのダウンロードはこちら

教育は、国の根幹を成すものである。それだけに教員不足は国の行く末を左右するほどの深刻な問題であり、教員がきちんと子どもたちに向き合い「教え育む」には、今のように教員が忙殺される環境であってはならない。教員免許を持った社会人が、もっと多く、教壇に立ちたいと思えるようになるためにも、教員の労働環境の改善が急務であることは変わらない。

調査概要
教員免許所持者調査
対象:現職教員ではない小学校教員免許状取得者150名、中学校・高校教員免許状取得者300名の合計450名
平均年齢:48.4歳
対象エリア:全国
調査日:2022年7月29日

(文・福島朋子、注記のない写真:jessie / PIXTA)