東洋経済新報社では、全国600人の小・中・高の教員に向けてオンライン学習環境や実施状況のアンケートを行った(2020年5月29日調査実施:小学校教員300、中学校・高等学校教員300)。全国の教育現場の実態と、教員のリアルな声から今後のヒントを探っていこう。
まだまだ低い教育現場のIT化
今回の一斉休校では、まさに多くの教育現場が「混乱」に陥った。都内の公立小学校に通う筆者の息子(6年生)のクラスも例外ではなかった。急きょ決まった休校に、学校側は準備する時間もなかったのだろう、当初は家庭学習や宿題の指示もなかった。その後、春休み期間に突入すると宿題のプリントが出され始めるようになり、4月以降になって新学年の学習内容に対応する大量のプリントが配られる事態になった。
海外でロックダウンと対で行われているオンライン授業の様子を横目で見ながら、なぜ日本では、オンライン教育に踏み切れないのか? 正直、そんな感想を持った。しかし、今回のアンケート結果を見ると、日本ではまだまだオンライン授業を実施するだけのインフラが整っていなかったことがよくわかる。このような環境で一斉休校に立ち向かわなければならなかった先生方に頭が下がる思いだ。
では、早速アンケートの結果を見ていこう。実施されたのは5月29日。この時点で自校のIT環境を確認する設問には、全体の46.5%の教員が「教員へのPC支給がある程度あり、Wi-Fi環境、ビジネスメールアドレスがある」と回答している。ただし、あくまでも教員へのPC・タブレット支給は「ある程度」でしかなく、より環境の整った「ほぼある」という回答はわずか全体の17.8%にとどまる。PCの支給がない、あるいは教員の一部にしかPCが支給されていない学校も、まだ全体の32.8%にも上る。
当然、オンライン授業の実施状況も少ない。オンライン授業の経験があり、5月29日の段階で行っていたのは全体のわずか10.5%だ。「検討している」という回答は38.8%で、「全く検討もしたことがない」という回答が45%にも上る。ただ、この内訳は、小学校と中学校/高等学校では少し様相が異なる。「全く検討もしたことがない」と回答した270人のうち、小学校の教員は約6割で、中高の教員が約4割となる。「現在オンライン授業を行っている」の回答になると、63名のうち、約8割が中高の教員の回答だ。中高一貫校や義務教育ではなくなる高等学校のほうが早期にオンライン授業の実施に取り組んでいる傾向がみられる。
オンライン授業形態は、
教員自身がPCから行うリアルタイム配信が最多
では実際、オンライン授業に乗り出した学校ではどのような形態で行われているのだろうか? 最も利用されているのが、オンラインミーティングソフトなどを通して教員自身がPCやタブレットから配信するリアルタイム(同時双方向型)の授業だ。これが全体の約20%近くを占めている。次に多いのが、生徒が都合のよい時間・場所で受講ができるフルオンデマンド型の授業である。そのほか、宿題やレポートを指定の期日までにアップさせるといった使い方も見受けられる。
リアルタイムの双方向授業が目立ったことは、コロナ禍で完全休校になっていたことが影響しているだろう。今後、平常時にはフルオンデマンド型の授業と課題提出を組み合わせる形なども需要は高いのではないだろうか。
またアンケートでは、オンライン授業の経験者に実施するまで苦労した点を、未経験者へは実施しない理由も聞いている。経験者がいちばん大変だったと答えたのは、33%が「授業内容」、次いで22.7%が「PCの設定・整備」で20.6%が「カメラ・動画ツールの設定・整備」となる。一方、未経験者のほうで側もいちばん多い回答は「PCの設定・整備」だ。いずれにしても、オンライン授業の障壁になっているのは、保護者や生徒への説明などではなく、学校側のIT機器やツールの整備が課題となっていることがわかる。
今回のアンケートでうかがい知ることができるのは、想像以上に日本の教育現場ではIT環境の整備が遅れていることだ。昨今、IT化が遅れていた自治体などでもデジタルガバメントを旗印に、徐々に職員1人1台のデジタル環境が整いつつある。それが教育現場となると現時点では、ほぼ教員1人1台環境を実現している学校が2割にも満たない。まずはインフラの整備が急務という点を認識しなければならない。(写真:iStock)