全体の約8割、IT環境が整う

GIGAスクール構想では、公立の小・中学校への2020年度中の「1人1台端末」の配布を目指してきただけに、IT環境は急速に整えられたはずだ。アンケート結果を見てもそれは如実に表れている。

自身の勤める学校のIT環境の整備状況について聞いた設問では、「ほどほどに整備されていると感じる」から「すべて整備されており、今後のプログラミング研修にもすべて対応」の整備状況が良好とする回答が78.5%と大半を占めた。

内訳を見ても、昨年12月の段階では、「ほどほどに整備されている」とした回答は47.5%であり「整備されていると感じる」と回答したのは20.3%だった。これが、6月の最新のアンケートでは、「ほどほどに整備されていると感じる」が39.5%に減り、逆に「整備されていると感じる」の結果が34.5%と増加した。環境の整備という点では、この1年で大きく動いたことがうかがえる。

オンライン授業の実施は微増にとどまる

ただし、そのIT環境をどのように授業に生かしていくか、その点ではまだまだ模索が続いているようだ。オンライン授業の経験を聞く質問では、「オンライン授業をしたことがあり、現在もしている」との回答はわずか5.8%。「オンライン授業をしたことがあるが、現在はしていない」が16.8%。昨年12月と比較をしても、オンライン授業の実施状況に大きな変動はなく微増の状況だ。

オンライン授業が進まない原因には、大きく2つの要因が考えられそうだ。1つは学校が休校になっておらず、対面での授業が行えるため必要性を感じていないこと。実際に、オンライン授業の経験はあるものの現在は行っていないとした回答者にその理由を聞いたところ、多数が「対面授業ができているから、必要ない」との返答が寄せられている。

この点に関しては、これまでも懸念されてきたが、GIGAスクールの目的がきちんと理解されていないことが考えられる。GIGAスクール構想によるICT教育の目的はパンデミックや災害時のみではない。

生徒一人ひとりの理解力に合わせた学習や「自ら学ぶ力」を後押しするもので、本質的な狙いを啓発することは、引き続き重要事項といえるだろう。

授業内容はZoomなどのリアルタイム型が急増

オンライン授業を行った場合の具体的な内容については、傾向として、事前に動画を撮影し配信する「フルオンデマンド型授業」は減少し、代わりにZoomなどを利用してのリアルタイムの双方向オンライン授業が増加している。

ただし、ここで問題となってくるのが、Zoomなどのリアルタイムの双方向授業でも、教材や資料の準備に労力がかかると回答している点だ。オンライン授業の経験者に準備段階でいちばん大変だったことを聞いた設問では「授業内容」が突出して多い。

具体的な記述回答を見ても、以下のように、オンライン授業に向けた新たな資料作りに苦慮していることが見受けられる。

・授業資料をオンライン版に作り変えた
・パワーポイントの準備やワークシートをA4サイズにまとめたこと
・パワーポイントのスライドから動画を作り配信した
・オンライン用のコンテンツ開発にコストと時間が足りない

 

オンライン授業が進まない要因のもう1つには、こうした準備への労力といった課題が考えられる。

教育現場では昨年からコロナ禍ということもあり、イレギュラーな対応にも追われている。そんな状況下で、現場の先生方が一から動画や資料を作成し、オンライン授業を構築するというのは難しいことも多いだろう。先行してオンライン授業に取り組む学校では、既存コンテンツを利用しながら、先生は生徒の理解促進のためのサポートに注力するケースもある。

「共有化」や「コラボレーション」を実現しやすいICTのメリットを考えても、資料などは個別に作成するのではなく、アーカイブを構築し共同利用する方向性へと進められれば、また違った展開となってくるはずだ。

オンライン授業のメリットには、不登校の生徒への対応も

もちろん、オンライン授業の利点も一定の評価はされている。「休校中に授業を進められたこと」や「自宅から授業が行えたこと」など、場所に制限されず学びの機会を提供できることには評価がある。また、「不登校の生徒も参加できる」こともオンライン授業の利点として認識され始めた。

一方で、前回のアンケート結果でも同じく課題として挙がっていたが、「生徒の反応がわかりにくい」ことは、今回も多くの先生が記載していた。同じオンラインでも、資料や動画などで説明している間に生徒側のカメラや音声がOFFになる場合は、確かに生徒の反応がわからない。

中には授業中にゲームをしていたケースも発覚したという。たとえ、運用上生徒側のカメラをONにしても、先生側が1台の端末しかない場合は、生徒全員をつねに確認することは難しい。特化したアプリケーションの利用やディスプレーとして複数デバイスを確保することなども今後検討する必要があるだろう。

オンライン授業の成功パターンの周知が必要?

急ピッチで進められた「1人1台端末」の整備。現在のところ機器やインフラ環境は整いつつあることがわかるが、ICTのメリットを生かした授業をつくれるかに関しては、スタートしたばかりと言わざるをえない。

以下は、オンライン授業をしたことのない方にその理由を聞いた結果だ。「PCの設定・整備」を起因とする回答が減少した一方で、「オンライン授業へのそもそもの知識不足」「オンライン授業が必要と感じていない」という回答が目立っている。

本来は、休校時だけでなく、生徒の自主的な学びや共同作業、そして先生方の校務の効率化にも利用できるICTの活用。資料やコンテンツの作成に負荷をかけずに生徒の学びの質を上げている事例も出てきている。

環境が整った今、GIGAスクール構想自体も成功事例などを参考に個別の学校単位でのチャレンジではなく、複数の学校あるいは地域などでの「共有」そして「共創」を視野に入れた展開が望まれるのではないだろうか。情報共有の実態については「第3回全国600人の小・中・高校の教員に向けたICT教育に関する調査②」でお届けする。

 

■6月下旬公開予定■
第3回全国600人の小・中・高校の教員に向けたICT教育に関する調査②

調査概要
教員に向けたICT教育に関する調査 調査日:2021年6月3日
小学校教員300名、中学・高校教員300名 平均値48.5歳 対象:全国

 

■過去調査記事■

2020年12月調査
https://toyokeizai.net/articles/-/399003
https://toyokeizai.net/articles/-/401177

2020年5月調査
https://toyokeizai.net/articles/-/364166
https://toyokeizai.net/articles/-/362680
https://toyokeizai.net/articles/-/362009