新幹線方式「インド高速鉄道」はどこまで進んだ? 新たな目標決まり土地買収や土木工事が進捗
今年2月9日、マハーラーシュトラ州にあるボンベイ高等裁判所が重要な判断を下した。土地収用を拒んでいた地主の訴えを退けたのである。裁判所によれば、「今回の高速鉄道計画は国家的な重要案件であり、土地取得が進んだ段階でこのような訴えを行うことは公共の利益に反する」という。この判断が残る土地取得に大きなプラス材料となった。4月時点の土地取得率はマハーラーシュトラ州で99.75%、クジャラート州で98.91%に達したとインドのメディアは報じている。
土地取得に続き、工事面でも大きな前進があった。7月20日、インド高速鉄道公社は、高架、トンネル、橋梁、軌道、駅、研修施設などの建設について請負業者への発注が100%完了したと発表した。もちろん、あくまで契約締結にすぎない。電気関係の工事の契約はまだ終わったわけではなく、車両についてもまだ気候や埃といったインド特有の条件をどこまで仕様に反映させるかを協議している段階だ。とはいえ、工事が始まった区間やすでに工事を終えた区間もあり、「電気や車両を除けば、全体の8割で施工段階に入っている」と、ある関係者は話す。沿線の各所で建設の槌音が聞こえているわけだ。
また508kmの区間のうち、ほぼ中間に当たるビリモラ―スーラット間(約60km)は集中施工区間として早期完成を目指している。本来の計画ではムンバイの隣駅ターネ付近とサバルマティ駅付近に車両基地が建設される予定だったが、ビリモラ―スーラット間を全線開業に先駆けて開業するとなれば、この区間にも車両基地が必要となる。そこで、急遽車両基地を設置して先行開業に備えることになっている。インド側は2026年中の完成を目標に掲げている。2023年開業という計画が事実上困難になり、一部区間だけでもできるだけ早く開業したいというわけだ。はたして間に合うか。
「遅々として進んでいる」計画
以上が、インド高速鉄道計画の現在の状況である。当初の計画と比べれば、現在の状況は明らかに遅れている。一方で、土地取得率が100%に近づいていることからもわかるとおり、コロナ前の状況と比較すれば状況は前進しているといえる。関係者の1人はこうした状況を「遅々として進んでいる」と表現する。遅々として進まないのではなく、ゆっくりではあるが着実に前進しているという意味だ。
心配があるとすれば、安全面と開業後の運営面だ。8月1日には、マハーラーシュトラ州で建設中の高速道路の現場で橋桁が倒壊し、多数の作業員が死傷する事故が起きた。高速鉄道でも完成を急ぐあまり、安全がおろそかになることがあってはならない。
運営面については、もともとの総事業費は約1兆ルピー(約1.8兆円)だが、数々の設計変更により事業費増は避けられそうもない。事業費の大半は円借款で賄われるとしても、当初予想よりも多額の負債を背負っての開業となれば、収益が思うように上がらない場合の経営リスクは大きく膨らむことに留意する必要があるだろう。
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