7日乗り放題「北海道&東日本パス」で旅するコツ 便利だが低い知名度「18きっぷ」とどう違う?

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忘れている方も多いと思うが、2022年夏、長万部では森の中に謎の水柱が出現し、高さ30mほどまで噴きあがった。宿の人に場所を聞いて早朝見学に行った。部屋にいても一定の音が聞こえていたが、近くに行くと予想以上の爆音であった。これは地元の人はたまったものではない。いつの間にか収まったとニュースで見たときはよそ者ながらほっとしたものだ。

長万部 水柱
2022年夏、長万部に突如噴出した水柱。近くに行くと予想以上の爆音だった(筆者撮影)

長万部から函館に向かう景色は、函館本線の白眉でもある。森駅までどこまでも青い噴火湾に寄り添って列車は進む。その後、大沼が広がる。観光客も多く訪れる場所であるが、車窓からは駒ケ岳を背にした静謐な深い青色の姿しか見えない。こんな景色こそ特急でなく、普通列車でゆっくりと眺めたい。この区間も古いキハ40が現役なのもよい。

大沼付近 函館本線 車窓風景
大沼付近の車窓は函館本線の白眉だ(筆者撮影)

そして、いよいよ北海道&東日本パスの利点である北海道新幹線の利用である。特定特急券は空いている席に座ることができる。コツはJRの予約サイト「えきねっと」で乗る列車の予約状況を確認して、事前に空席の見当をつけておくことだ。新函館北斗から新青森までは1時間弱で、その後、盛岡まで普通列車で向かう時間を容易に捻出できた。

新幹線では通過してしまう町の息吹

冒頭でも利点に挙げたが、このパスは青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道を利用できることも18きっぷにない強みである。両線は意外と運賃が高く、例えば盛岡―八戸間を利用すると3110円、新幹線では乗車券1690円、特定特急券1870円の計3560円である。所要時間は前者が1時間50分前後、後者は30分前後であるから、誰もが新幹線を選ぶであろう。

なので、この路線に乗る機会は意外と少ないのではないかと思う。このときは盛岡に近い滝沢という駅で降りてみた。なんの予備知識もなかったが、高校生が多数下車した。近くに盛岡大学、岩手市立大学があり学生が多いようだ。駅に併設されたカフェでコーヒーを飲みながら、店主に話を聞いた。以前のオーナーが経営を断念したが、たまたま移動販売をしていた関係で声をかけられ店を継いだという。

いわて銀河鉄道 滝沢駅
IGRいわて銀河鉄道の滝沢駅(筆者撮影)

店内に多数の本があるので読んでいると、このあたりには「チャグチャグ馬コ」という神事があるとのことであった。思わず店主に「観光に生かせるといいですね」と提言したところ「そこに目を配ることができるのは外の人です。住んでいる我々は日々精一杯なのが正直なところです」との返答であった。考えさせられる。

こんなふうに、普通列車の旅には思わぬ出会いがある。新幹線で通過してしまう町それぞれに、地元の人たちの生活がある。そこにちょっとお邪魔してみるのもよいのではないかと思う。

最後に、それでも18きっぷで北海道に行ってみたいという場合は、鉄道ではなくフェリーで渡ることを勧める。フェリーに乗る当日は18きっぷを利用しない日として、青函連絡船があった時代を想像しつつ、ゆったりした船旅を楽しみ、函館観光や青森観光に充ててみよう。

このようなことができるのは、連続した利用でなくともよい18きっぷの使い勝手のよさだ。

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八田 裕之 週末旅行家

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はった ひろゆき / Hiroyuki Hatta

1967年生まれ。武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部電子通信工学科卒。JR全線完乗した鉄道ファンにして、Jリーグをこよなく愛する。平日は会社員だが休日はJリーグ遠征で全国奔走の日々。フュージョンバンド「Quiet Village」のリーダーとしてギターと作曲を担当、オリジナルアルバム発表、鉄道コンピレーションアルバム参加など、音楽活動も行う。

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