廃線跡の旅人宿「天塩弥生駅」では何が起きる? 深名線の跡地に「駅」を建設、営業は週末のみ

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夜の旅人宿「天塩弥生駅」。辺りは真っ暗で、ここの灯りだけを頼りに歩いた(筆者撮影)

JR北海道の深川駅からバスで3時間半。降り立ったところは暗闇だった。雪の中、去りゆくバスの後ろ姿を見送りつつ、不安になって辺りを見回す。遠くにポツンと灯りが見えた。あそこだ。私は、灯りに向かって早足で歩き出した。

「おかえりなさい」

宿の主人の「とどぐま」さんこと富岡達彦さんが、そう言って玄関先で迎えてくれる。初めて来た場所なのだが、思わず「ただいま」と答えてしまった。まるで自分の家に帰ってきたかのような懐かしさを感じる。

ここは旅人宿「天塩弥生駅」。北海道名寄市弥生にある民宿だ。天塩弥生駅というのは、1995年9月に廃線となった深名線に実際に存在した駅である。廃線時に駅舎は撤去されてしまったが、その天塩弥生駅の跡地に、北海道らしい三角屋根の木造駅舎を蘇らせ、民宿にしたのがこちらの旅人宿「天塩弥生駅」なのだ。

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FM番組に強制出演

靴を脱いで上がると、真ん中に大きなストーブを備えた広間があった。かつて使われていたのであろう、タブレットなどの鉄道用具やグッズが、壁に所狭しと飾られている。

カウンターの上には「普通旅客運賃表」と白文字で書かれた黒板。よく見ると運賃以外に、宿の寝台料金「1泊2食5500円」と表示されていた。

「まずは宿泊者名簿に名前を書いてくださいね」

そう言われて出された宿泊者名簿は、まるで常備券のよう。続いて「寝台券」と印字された硬券きっぷが出てきた。宿泊の種別の「1泊2食」のところにパチン、と鋏が入れられる。寝台券のきっぷには「2号車の6番、下段」と書かれていた。遊び心が楽しい。

テーブルに並ぶ豪華な夕食は、妻の「ばばなさん」こと、富岡由起子さんの手作りだ。北海道らしいニシンの煮付けや、地元産の百合根が入った卵の蒸し物などがずらり。味付けも最高だった。

この日の客は、私と2人組の女性の3人。話をしながら、和やかに食事を終えた後、みんなでコミュニティFMの「エフエムなよろ」(Airてっし)に向かった。ここで富岡さんご夫妻は「ばばな・とどぐまの人生(たび)の途中」という1時間番組を、第2・4金曜日に生放送している。つまりその日に宿泊する客は、強制的にこのラジオにゲストとして出演することになるのがおもしろい。

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