JR只見線、トキ鉄「雪月花」特別運行の全舞台裏 「磨けば光るローカル線の横綱」を光らせるには

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普段でも雪月花の旅行代金は1人約2万5000円と安くないが、今回の額は8万円。それも上越妙高までの新幹線代や会津での宿泊がセットでもない、純粋に上越妙高から会津若松、あるいはその逆の片道を乗るだけである。だが、募集定員の上下36人ずつはあっと言う間に売り切れた。それだけ、「雪月花の只見線運行」という特別な価値が注目を集めたわけだ。北海道から駆け付けた参加者もいる。

ともあれ、橋上駅で受付を済ませたツアー客は逸る心そのままに改札からホームに下り、赤い車両の観察と撮影に余念がない。トキ鉄の鳥塚亮社長と談笑する人もいる。雪月花の常連らしい。端正な身なりのクルーに迎えられて乗車すると、隣に「観光急行」の前運用で妙高高原を往復する455系快速が到着し、9時00分の発車時刻を迎えた。

只見線随一の景観として今やインターナショナルな観光名所となった第一只見川橋梁 道の駅付近から遊歩道が延びている(会津桧原ー会津西方間、写真:山井美希)

空気を運ぶ路線がSNSで訪日客の人気観光地に

今回の「雪月花」の只見線運行は、只見線の3分の1は新潟県とは言え、新潟の第三セクター会社の列車が福島県へ出向いて走る異例の出来事であった。その端緒は、独特の論理で全国にローカル線の活用法を発信する鳥塚氏(当時はいすみ鉄道社長)への講演依頼だったと言う。

2012年当時、沿線市町や住民は、東日本大震災に追い討ちをかけた災害に「もう復活はないのか?」と諦めムードだった。道を模索しようにもJRや県の応答は芳しくなく、住民は愚痴や文句を言うばかりだったと言う。写真家の星賢孝氏もその中の1人だったが、鳥塚氏は「まずは自分でできることをやればよい」と持論を説いた。そこで、やがて「年間300日只見線を撮る男」の異名を冠される星氏は、四季折々の只見線の写真をSNSで発信した。すると、これがバズった。それも台湾や香港などで。只見線は日本人が目を向けないうちに海外で知られる人気観光地となり、やがて霧幻峡の渡船復活などにも連鎖し、大きな転機となった。

只見町で聞いた話を交えると、2011年3月、東日本大震災により福島県は「浜通り」が原発事故、「中通り」は震災自体の被害が大きかった。それに対して「会津」は震災被害が少なかったのに水害で打撃を受けてしまった。とりわけ原発事故は、海外のFUKUSHIMAに対するイメージを著しく下げてしまった。ところが、「空気を運ぶ…」と言われていた路線に大きな変化が起きていた。県知事はこれに着目、只見川流域の復興の中心に只見線復活を据えた。

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