日本企業はもっと「円安」を心配したほうがいい 日米金利差が理由だと思っていると見誤る

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自動車分野では、日本は間もなく中国に世界一の輸出国の座を譲ることになるだろうが、その一因は、日本企業がこれまで以上に普及してきているバッテリー駆動の電気自動車(EV)で出遅れているためだ。

日本で生産される自動車の半分を輸出が占めているため、輸出市場シェアの低下は経済に大きな打撃となるだろう。それだけでなく、日本の自動車メーカーは、中国や欧州といった生産国でも市場シェアを落としている。テスラを購入したアメリカ人の40%は、日本ブランドからの乗り換えだった。

円安が、政策立案者が期待したほど日本の輸出に貢献しなかったもう1つの理由が、この自動車のケースから浮かび上がってくる。日本の自動車メーカーは、海外売上高の80%を日本からの輸出ではなく海外生産で稼いでいる。

エレクトロニクスからあらゆる機械に至るまで、他の主要製品にも同じパターンが見られる。日本企業が生産拠点を海外に移せば移すほど、円の価値が下がっても輸出を押し上げる効果は小さくなる。

円安によってコストも増大している

経済学では、利益があるものにはすべてコストもかかる。重要なのは、利益がコストより大きいかどうかである。円安は、日本の家庭や生産者が食料やエネルギーに対してより多くのお金を支払わなければならないことを意味する。それにより、日本から外国の生産者に収益が移転することになる。

食料やエネルギーの輸入価格上昇は、今日のインフレ上昇と実質賃金低下の最大の要因だ。賃金の低下により、消費者がメイド・イン・ジャパンの製品を購入するための資金は減少している。その結果、2023年の実質(物価調整後)家計消費支出は、2012年当時を下回っている。

日本は、輸出の改善という点で、さらに少ない利益を得るために、より高いコストを支払わなければならなくなっている。今日の円安は経済的な弱さを反映しているだけではない。それにより、弱い経済がさらに不安定にもなっているのである。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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