EV起点に脱炭素ビジネスを創る住友商事の野望 通勤用マイカーをEV化、蓄電所ビジネスも始動

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EVをめぐる住友商事の取り組みは、使用済み蓄電池の再利用でも広がりをみせている。

北海道千歳市の工業団地では、7500平方㍍の土地に5棟の建屋が建設中だ。中には日産のEV「リーフ」に使用される約700台分の蓄電池がずらりと並ぶ。蓄電池を連結し系統送電線につなげることで、出力6000キロワットの「蓄電所」になる。稼働は今年8月の見通しだ。

北海道千歳市の「蓄電所」は今年8月の稼働に向けて、建設工事が進む(完成イメージ、画像:住友商事)

これまで充電も放電もできる蓄電池は位置づけが曖昧だったが、2022年の電気事業法改正で、大型蓄電池からの放電が「発電事業」に位置づけられた。この法改正と電力の容量市場や需給電力市場などの整備で「蓄電所ビジネス」が動き出した。

10年以上前からロビー活動を積み重ね

「住友商事はEVバッテリーの再利用を念頭に構想をスタートさせてきた。蓄電池が再生可能エネルギー社会を支える時代がくると見通して、10年以上前から法改正のロビー活動もやってきた。新たなビジネスをゼロからつくり、フロントランナーになっている」。ゼロエミッション・ソリューション事業部で大型蓄電池事業チームを率いる中島智寛チームリーダーはそう胸を張る。

初代日産リーフが発売されたのは2010年のこと。当時から退役電池の利用を想定し、コツコツと事業を温めてきた。同年に設立された住友商事と日産自動車との合弁会社「フォーアールエナジー」では、リーフの中古バッテリーを分解してモジュールを再構築し、これまでEVの急速充電器や踏切のバックアップ電源など小規模な用途で電池を供給してきた。

一方、規模の大きな蓄電所のような設備では、検査済みの中古バッテリーを分解せず、電池パックのまま利用することになる。

ところが、品質にばらつきのある中古の蓄電池を単純につなぐと、品質の悪い方に引っ張られて十分な性能が発揮できない。「バッテリー間の性能を調整して、最大の出力を出せるかがカギだった。その技術を日産と共同で開発できたことが大きい」と中島氏は話す。

技術開発を積み重ねてきた中で、「蓄電所」が実質解禁され、蓄電池のリユース事業はついに「本命」とも言えるビジネスにたどり着いた。

蓄電所が系統と接続していることで、蓄電所の電力容量の数倍の電力受け入れ余力が系統全体に生まれる。その分だけ太陽光や風力発電の再エネ電力を追加できる。電力の調整力がとくに必要な北海道をはじめ、今後は九州や東北地方などでもビジネス展開を模索する。

「今年8月に系統に接続し、半年かけて市場でしっかりと運用ができることを確かめる。2024年度にフルオープンする(需給調整などの)市場に飛び込んで行く」(中島氏)

経済産業省の資料などによると、2030年度までに系統に接続する電力容量は200万キロワット程度に伸びると予想されている。「石橋を叩いても渡らない」と言われる住友商事だが、蓄電所ビジネスでは広大な市場のフロントランナーになろうとしている。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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