天空から地上へデータ覇権をエッジAIで取り戻す ArchiTekのいいとこ取りチップはデバイスの脳

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井上:まさにGAFAの逆張り、壮大な構想ですね。小さなチップが天空の雲で支配するデータの流れを地上の末端に引き寄せる。そのための課題は何でしょうか。

高田:一つはオープン戦略の難しさです。やはり仕様を公開しないと使ってもらえないのですが、すべて公開するわけにもいかない。

半導体メーカーのSTマイクロエレクトロニクスさんはオープン作戦ですね。昔から取引のあるチップベンダーと顧客企業との間に割って入るために仕様を公開している。ベンチャーはその作戦だろうなと思います。

特許の専門家からも助言されたのですが、特許は独占するのではなく、無料で使ってもらう。そして一緒のグループになってもらう。その代わりにソフトについてはロイヤリティーをいただく。ソフトがないと結局、チップを作っても速く動かないので。だからハードを普及させることが大切だと。

そのための設計支援もするつもりです。普及のためのライセンスも考えています。お客さんにこういう回路を作りたいと言われれば、うちでだいたい面倒を見ることができます。

井上:力のあるパートナーが必要ですね。

高田:そうなんです。でも日本にはオープンなエコシステムがまだできてないんです。オープンイノベーションの部門はあっても、よほどのことがない限り進まない。基本的に自前で開発するといういう考え方が強いです。

井上:それはもったいない。GAFA級のイノベーションが必要だと、産学官で叫ばれている今の時代、大企業にリードしてもらわないとせっかくの技術を腐らせることになります。ベンチャーキャピタルはどうなのでしょうか。

オープンイノベーションのエコシステム

高田:投資家の方々にご理解をいただくのにも骨が折れますね。そこまでのスケール感で見てくれない。エッジからプラットフォームを抑えるというのはGAFA級というか、国の産業や経済力につながるので、応援してほしいんですけれども。

アメリカの場合、VCに優れた技術を提示したら「あの会社と組め」と提携や買収が進められる。そうすると、成功可能性がどんどん上がっていくじゃないですか。日本の場合、ソフトウェア系のほうがイグジットが早いんで、投資家はそちらばかり流れてしまう。

国の助成事業も、税金を投入するのだからという理由で社会実装の実績が重んじられる。ニワトリが先か卵が先かじゃないですけど、自前主義だと大企業に採用されにくいので、実績を上げるのが難しいんです。

それで「社会実装力がないから」という理由で採択されないのはつらい。逆に、大企業のほうが社会実装力はあるので、大企業の案件ばかりが通ることになる。

だから、われわれは、スタートアップとして新しい技術を開発して、オープンにして大企業に社会実装してもらえるように工夫しています。

井上:日本発の半導体は誰もが期待しているビジネスです。地上の星を目指して頑張ってください。

ArchiTek 設立:2011年9月 所在地:大阪市西区 資本金:1億円 社員数:24人(2022年末時点)

経営学者・井上達彦の眼

MITのマイケル・クスマノ教授らの調査によれば、プラットフォーム企業は、同一業界の価値連鎖型の非プラットフォーム企業と比較すると、その経営効率は約2倍にも達すると言われる。約半数の従業員数で同程度の売り上げを計上し、営業利益率が2倍である。それゆえ、株式市場からの評価も高く、企業価値も2倍となる。
ArchiTekは、投資規模が大きい半導体ビジネスの効率を高めるために、プラットフォームの構想を取り入れる。注目すべきはその多元性である。
まず、製品レベルで半導体チップをプラットフォームにする。特許は独占せずにパートナーを呼び込み、広く普及させていくわけだ。
次に、そのチップを動かすためのソフトウェアの開発にもパートナーを巻き込み、補完財プラットフォームを築く。自身は販売のプラットフォームを築いて投資を回収していく。
そして最後にエッジデバイスで生まれたデータを、それを求める利用者に仲介するマッチングプラットフォームをつくる。データの売買が活発になればなるほど収益が伸びる仕組みである。
製品、補完財、マッチングという3つのプラットフォームによって、多様なパートナーと共に、多様なソリューションを生み出すことができる。ArchiTekのチップの価値はますます高まり、次代への投資へと備えることができる。
大切なのは、すべてを自分でやり切るのではなく、パートナーの力を借り、関わり合いを促し、好循環を引き起こしていくことだ。
ただし、プラットフォームの立ち上げには、それを支えるエコシステムが必要である。国の助成、大企業によるパートナーシップ、VCによる資金と支援がなければ、立ち上げるだけの勢いがつかない。
わが国も、エコシステムはかなり整備されてきているが、半導体事業を育てるだけのレベルに達しているか。天地をひっくり返すようなArchiTekの半導体に希望をもちたい。
井上達彦教授がディープテック16社を訪ね、ビジネスモデルをとことん問う連載記事はこちらから
井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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