5類と円安で加速「オーバーツーリズムの脅威」 SDGsは適切に行えば「コスト削減」につながる

拡大
縮小

ほかに、観光消費額の拡大に結びつきやすい取り組みとして、自然観光(アドベンチャーツーリズム)の促進が考えられる。一般的にアドベンチャーツーリズムは観光消費額の多い欧米豪からのインバウンドに好まれるとされるが、これまで日本は、豊富な自然がありながら、文化観光に比べて自然観光は不得手とされてきた。自然観光の促進(観光庁)と自然保護(環境省)の両立の難しさなども指摘されているが、ほかにどのような問題があるのだろうか。日本のアドベンチャーツーリズムの現状について、村山氏は以下のように話す。

「北海道宝島旅行社という10年以上、北海道を舞台にさまざまなアドベンチャーツアーを提供している会社があるが、顧客のほとんどは、インバウンドのFIT(個人旅行)だ。富裕層のインバウンドFITは、今日はどこで何を体験する、明日はどこへ移動して何をするというようなフルオーダーメイドの商品を購入する。一方、日本人は自分でクルマを運転して移動できるし、言葉の問題もなく、個別の体験型商品を組み合わせることも可能なのでオーダーメイドの需要が少ない。そもそも数日間で数十万円以上という高額な旅行商品を受け入れる下地がないということもある」

つまり、アドベンチャーツーリズムで生き残るには、インバウンド、FIT、オーダーメイドというキーワードに寄せるしかないという事業環境なのである。ここで課題となるのが、北海道宝島旅行社のような経験豊富なガイドがいるところは別として、一般的に日本では、インバウンド向けの熟練した自然観光ガイドが不足しているということだ。

北海道知床のアドベンチャー・ツアー。一般的にアドベンチャー・ツーリズムは観光消費額の多い、欧米豪インバウンドに好まれるとされる(村山氏提供)

「まずは日本の観光事業者がカナダ、ニュージーランド、オーストラリア、スイス、南アフリカなど自然観光の先進国に出かけていき、世界水準で人気のあるアドベンチャーを体験し、どんなガイドが行われているのか知るべきだ。一定期間、現地で働いて戻ってくるといった人的交流のような形でもいいかもしれない」(村山氏)

まずは「選ばれている理由」を把握する

次は、「地方誘客促進」について見ていくが、地方のDMOなどにとっては、これが一番切実な問題かもしれない。闇雲にホームページや動画等を作成して情報発信しても誘客効果は薄く、お金ばかりがかかるという悩みを抱えているのではないか。そもそも世界の市場ニーズを把握する方法がわからないといった声も聞こえてくる。その対策として村山氏が一番にやるべきというのは「足元の調査」だという。

「まずは、自分たちの地域がインバウンドに『選ばれている理由』を把握することが重要だ。X県のA市に来ているインバウンドが、なぜ、同じ県内のB市ではなくA市に来ているのか、また、どのメディアを見てA市を知ったのかをアンケート調査すればいい。その結果、ある旅行サイトを見て来ている人が多かったならば、そのメディアでの情報発信を強化したり、場合によっては広告出稿を検討してみてもいい。さらにアンケートで、A市を訪れて困ったことや課題についても徹底的に聞くことができれば受け入れ体制の改善に役立ち、さらなる誘客につながる」

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