情報を「消費」するだけの人「吸収」までする人の差 情報過多の今こそ「セカンドブレイン」が重要だ

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イベントの企画や製品のデザインなどがそうであるように、人は作業に取りかかるとき、その場でアクセスできるアイデアだけを利用しがちだ。例えばブレインストーミングをしてアイデアをたくさん出したとしても、それはその時点で頭に浮かんだことだけに頼っているにすぎない。

いちばんクリエイティブで、いちばん革新的なアプローチが頭に浮かぶ確率はどれくらいか? 最初に思いついたことがベストだと本当に言えるか?
この傾向は“直近バイアス”(recency bias)として知られています。
これは、人は直近で得たアイデア、解決策、影響を、それらがベストであるかどうかにかかわらず支持しがちだという脳の傾向のこと。(44ページより)

では、もしも数週間分の、数カ月分の、数年分もの蓄積された知恵が利用可能になったとしたらどうだろう? そこには大きな可能性が生まれるのではないか?

このアプローチを“ゆるい燃焼(スローバーン)”と呼ぶのだそうだ。おいしいシチューの鍋を火にかけておくように、思考の断片をゆっくり煮込むということ。大あわてでやるのではなく、アイデアを徐々に集積させる、より冷静で持続可能なアプローチなのだ。

鋭い視点に磨きがかかる

著者によればセカンドブレインの最終目的は、「自分自身の考え」を輝かせること。

プリンストン大学の最新研究で、数年のうちに機械に取って代わられる可能性がもっとも低い職業が発表されたそうだ。高度な技術や長年の訓練が必要な職種になるとの予測をくつがえし、意外にも上位は“情報だけでなく、情報に関する解釈まで”伝達する能力が求められる職業だったのだという。

つまり今後、私たちのキャリアとビジネスにおいて重要視されることは、ある特定の見解を持ち、それを人にも説得する能力だということだ。

アメリカのジャーナリスト、著述家、映像作家のセバスチャン・ユンガーは「作家の壁」(訳注:クリエイターが新しい作品を生む発想力を失った状態のこと)についてこう記しています。
「行き詰まっているというわけではない。あるテーマについて能力と知識をもって書けるだけの十分なリサーチを行っていない、ということだ。適切な言葉が見つからないという意味ではなく、[どちらかと言えば]書くべき材料がないという意味だ」(45ページより)

クリエイティブな能力に行き詰まっているときは、自分自身に問題があるわけではないということ。腕が鈍ったわけでも、ひらめきが枯渇したわけでもなく、単にまだ材料が足りないと考えるべきなのである。

自分の中の「ひらめきの泉」が枯れているように感じるなら、実例やイラスト、ストーリー、統計、図表、類推(アナロジー)、隠喩(メタファー)、写真、マインドマップ、会話メモ、引用など、必要な素材をもっと集めるべきタイミングです。(46ページより)

そういった作業を進めるにあたって、セカンドブレインが大きな役割を果たしてくれるということなのだろう。たしかにセカンドブレインをいままで以上に意識的に活用できれば、可能性がより広がっていくことになるのかもしれない。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

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