東急の五島慶太が計画した「札幌急行鉄道」の全貌 公設民営制度が進化、「構想復活」の可能性は?

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近年の地方都市での鉄軌道整備については、2023年8月に栃木県で宇都宮ライトレールの宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地間14.6kmが開業することが予定されている。2023年現在、起点となる宇都宮市の人口は約51万人で、終点の芳賀町の人口は約1万5000人。対して、札幌急行鉄道構想のあった現在の札幌市の人口は約196万人で、江別市の人口は約12万人と圧倒的な人口集積を誇る。

鉄道・運輸機構(旧鉄道建設公団)で北海道新幹線建設局長などを歴任し、鉄道・交通政策にも詳しい富山大学特別研究教授の金山洋一氏は、札幌急行鉄道構想の復活について、予算措置を含め「公設民営により整備ができる可能性はある」と話す。「鉄道の上下分離に関する制度は社会的要請に応じて進化を続けている」ことから「今の時代に合ったコンセプトをどのように打ち出すかが重要」で、地盤の弱さから国鉄(現JR)線が南に迂回して建設された札幌・東米里地区についても「今の土木技術ではこうした地盤の軟弱性にも対応ができる」という。

成功の秘訣は?

近年、「冬こそJR」を謳い文句にしていた発足当初とは異なり、冬期間の列車の運休や間引き運転の頻発により、JR北海道のサービス劣化と道民からの信用低下が著しい。こうした背景から、札幌近郊における「雪に強くより利便性の高い鉄道の代替ルートを作ること」や「JR北海道の競合相手を作り刺激を与えることで、JRのサービスアップにつなげる」ことは時代に合ったコンセプトになりそうだ。

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市民目線では、高齢化が進む江別市内のニュータウンや、札幌市内の鉄道空白地帯の住宅地の再活性化のため「交通の利便性を向上させることで若い人にも気楽に住みやすく選んでもらうことのできる都市」を目指して市民運動につなげていくという方法も考えられる。

北陸地方のライトレール先進県で鉄軌道の推進・整備を実現させてきた市民団体幹部は「行政機関の記録に残る活動を積み重ねていくことが成功する市民運動の秘訣になる」と話す。例えば、構想に賛同する仲間を募り定期的なシンポジウムや講演会の開催のほか、市町村議会議員を巻き込み議会一般質問で鉄道に関する質問を出し続け「自治体に対して鉄軌道整備のための意識付けを行っていくこと」が構想復活に向けての第一歩になる。

櫛田 泉 経済ジャーナリスト

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くしだ・せん / Sen Kushida

くしだ・せん●1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。

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