「アメリカの歴史は白人が創った」主張に見る過ち ヨーロッパ人入植の背景、国が形成される過程

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17世紀後半、先住民族側は部族間で同盟を組み、白人入植者らと戦争をはじめます。銃で武装した白人入植者は先住民族を追い詰めていき、各地で民族浄化を行ないます。

先住民族絶滅政策は18世紀にも引き継がれ、ジョージ・ワシントンは植民地軍司令官時代に、先住民族部族の集落に対し、焦土作戦を指揮・実行しました。

スペインの白人入植者たちは、中南米で先住民族や黒人と混血しました。特に、スペイン人は先住民族女性を好み、彼女らを半ば性奴隷にして、メスティーソと呼ばれる混血児を生ませました。

ピューリタンの宗教戒律

これに対し、イギリス人入植者は他人種と混血をしませんでした。これは、ピューリタンの宗教戒律が大きく影響しています。

新天地を築き、神と共に生きていこうとする当時のピューリタンたちにとって、宗教的な戒律は精神の支えでした。ピューリタンたちは戒律を先鋭化させて、極端ともいえる理想主義を生み出し、異端分子や異質なものを排除しようとしました。

アメリカの文学者ナサニエル・ホーソーンの小説『緋文字(The Scarlet Letter)』(1850年出版)は当時のピューリタンの精神的状況をよく表現しています。

この小説は17世紀のアメリカのピューリタン社会を舞台に、不倫の末に出産をする女性を主人公にしています。不義の子を産んだ主人公はピューリタンの戒律により、姦通(adulty)の罪を表わす「A」の緋文字の入った布を胸に付けることを強制されます。

街の人々からの激しい誹謗に晒されながら、生きていく主人公の姿や内面を描いています。「密通した男の名を言え」と執拗に迫る牧師に対し、主人公の女は黙秘を続けます。ホーソーンはピューリタンの戒律の急進性とその矛盾を描写しました。

このような厳格な戒律が現実としてどこまで守られていたかは疑問ですが、建前として理想主義が掲げられ、自分たちを正当化し、他民族を異端として排除するための理論として大いに活用されました。

他民族との混血は受け入れられるものではなく、それは戒律への挑戦と見なされました。この考え方はWASPに属する人々に広く共有されていました。

一方、カトリックを奉ずるスペイン人入植者には、このような排他的な戒律はありませんでした。カトリックは博愛主義の傾向が比較的に強かったのです。また、スペイン人入植者はコンキスタドール(征服者)をはじめ、宗教的情熱よりも経済利益の追求が勝っていました。

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