三菱自、EV向け電池の調達戦略で抱えるジレンマ GSユアサなどと出資、電池製造子会社が焦点に

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電動車の販売比率目標ではこれまで2031年3月期50%としていたが、新たに2036年3月期100%を掲げた。三菱自は世界で初めての乗用EVとなる「i-MiEV(アイミーブ)」(2021年3月生産終了)を2009年に投入するなどEVでは先行組だった。ただ、道のりは険しい。そもそも三菱自の電動車販売台数(2022年3月期)は4万3021台、世界販売に占める電動車の比率は4.5%にとどまる。

「リチウムエナジーはこのままでいいのか」

三菱自にとって、現在最も難しい選択を迫られているのは電池の調達戦略だ。

「リチウムエナジージャパンをどうするんだ。このままでいいのか」。三菱自関係者によると昨年以降、開発陣の中では電池調達の議論をする中で、GSユアサや三菱商事と共同出資する電池メーカーであるリチウムエナジーの処遇が焦点になっているという。リチウムエナジーは、三菱自のアイミーブ向け電池を供給。軽商用EV「ミニキャブ-MiEV」やプラグインハイブリッド車「エクリプスクロス」の電池を供給するなど三菱自の電池戦略を支えてきた。

三菱自動車の加藤隆雄社長
加藤社長は電池戦略についてルノー・日産・三菱自のアライアンスを活用すると話した(写真はアライアンス記者会見時。アライアンス提供)

一方で、近年はリチウムエナジー以外の調達先も拡大してきた。21年10月に全面改良した主力プラグインハイブリッド車(PHV)「アウトランダー」や22年6月に投入した新型軽自動車EV「eKクロスEV」で、エンビジョンAESCグループの電池を採用している。三菱自は、アライアンスを組む日産との部品の共通化によるスケールメリットが見込めることや調達の多角化を図るためと説明する。

外部調達を強化していけば、子会社のリチウムエナジーの事業が細る。三菱自はそうしたジレンマに直面している。具体的な処方箋は示せていない。三菱自は新中計で2030年までに約2100億円を投じ、15ギガワット時(GWh)の電池を調達する目標を掲げた。ただ、現状で示しているのはアライアンスや戦略パートナーから調達していくという方針だけだ。開発担当の長岡宏副社長も「いろいろな選択肢を検討している」と述べるにとどめた。

AESCは元々日産の子会社だ。AESCから調達を受けることで、日産とアライアンスを組む三菱自も電池調達でスケールメリットを享受できる。さらに、AESCは日産のEV「リーフ」向け電池で10年以上の実績があり、安全性や品質面での評価も高い。ここ数年はホンダやマツダ、ドイツのBMWやメルセデス・ベンツグループ、フランスのルノーなどに供給先を拡げている。

三菱自の主力電動車はPHVだ。PHVとEVでは出力や形状など求められる電池の特性が異なるという事情もある。このため当面は、PHV向け電池をリチウムエナジー、EV向け電池をAESCなどアライアンスや外部からの調達に頼る方針とみられる。しかし、ボストンコンサルティンググループの予測によると、2035年の世界新車販売に占めるEV比率は59%に達し、PHVはわずか3%にとどまる。今後の環境規制の強化や市場見通しを踏まえれば、将来的には主流となるEV向け電池の調達が圧倒的に重要になる。

ある中堅自動車メーカーの開発担当役員は「大手に比べて我々のような規模の会社は経営資源も限られる。電池の量産は外部に頼らざるをえない」と指摘する。三菱自にとっては、成長ドライバーに据える東南アジアやオセアニアと、依然として主力市場であるヨーロッパやアメリカではEVを中心とした電動車の普及速度が大きく異なることも悩みの種だ。

国や地域でメリハリのある戦略を展開することが必要で、電池のサプライチェーンの最適解をどのように見いだすのか。難しい選択を迫られている。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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