小田急車両基地「伊勢原に新設」で起こる大再編 相模大野から機能移転、海老名はどうなる?

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新たな車両所が稼働すると、大野総合車両所は役割を終えることになる。その跡地はどうなるか。大野総合車両所は相模大野駅に隣接しており、いわば「駅近」。周辺には住宅が広がる。ここで大規模な住宅開発を行えば、小田急の不動産事業の基盤強化につながるに違いない。

こんな見方を星野社長に披露すると、「(不動産)事業の利用は難しい」という答えが返ってきた。小田原線と江ノ島線の線路の間にはさまれた土地であることが理由だという。星野社長は代わりに「まだアイデアの段階ですが」と前置きしたうえで、「海老名駅に隣接する検車区の車両留置機能をこの場所に移管する案がある」と教えてくれた。その理由は、海老名駅周辺が相模川に近いことにある。

海老名車両基地はどうなる?

2019年10月、台風19号の影響による千曲川の氾濫で北陸新幹線の車両基地が水没し、車両が浸水被害を受けたJR東日本とJR西日本は新幹線10編成をを廃車する事態となった。

では小田急の場合はどうか。海老名市の防災ハザードマップを見ると、相模川が氾濫すると海老名の検車区があるエリアは0.5〜3m程度浸水するおそれがある。放置するわけにはいかず、何らかの対策が必要だ。というわけで、大野総合車両所の機能移転を機に、海老名の車両留置機能を相模大野に移してはどうかというアイデアが出てきたというわけである。

【2023年3月17日13時10分追記】初出時、市の名前に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

海老名車両基地
海老名駅に隣接する車両基地=2019年(編集部撮影)

その場合、相模大野に機能移管した後の海老名検車区のスペースはどうなるのか。同社でもそこまで検討は行っていない。ただ、近年の海老名駅周辺は小田急が大規模の不動産開発を行い、今や民間調査による「住みたい街」の常連である。小田急としては、土地さえあれば海老名でもっと不動産開発をしたいはずだ。そう考えると、相模大野ではなく海老名で新たな不動産開発を行うことは悪い考えではない。小田急の広報は「そのように受け取られるのは本意ではない」とするが、はたしてどうなるか。

小田急にとっては鉄道事業のリスクを減らし、ひょっとしたら不動産事業の拡大につながるかもしれない。市にとっては観光や企業誘致の新たなツールになりうる。老朽化した大野総合車両所の機能移転が、さまざまな方向で新たな動きを生み出そうとしている。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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