井上:そんなスーパーサイエンティストがいらっしゃれば、あとはスムーズにことが進んだのでしょうか。
関水:いえ、全くスムーズではありません。むしろ苦難の8年間です。
医療の世界でモノを作りきるには、知恵だけではなく経験も重要です。センサー1つ量産しようにも、元コンサルの私と大学の先生と研究室のポスドクとでやり切れるものではありません。起業したものの、このままでは資金が尽きて倒産してしまう、ということでバイオセンサーの製品上市(市場投入)経験がある民間人材を必死になって探すことになりました。
しかし、人材探しは本当に難航しました。
そもそも検査技術の世界は、過去20年間、大きなイノベーションが起きていません。例えば血圧計も60~70年代の技術ですし、パルスオキシメーターやDNA解析の基礎技術、血糖検査なども大体1990年代くらいまでに完成しています。
ですから、基礎研究から事業化までを経験した人は、もうみんな60代とか70代になってしまっている。さすがに採用できないですし、逆に若い人は改良しかやったことない方がほとんどです。私たちの求める水準の方がいなかったのです。
そこで注目したのが連続グルコースモニタリング(CGM)です。これは細い針を皮膚の中に留置するタイプの血糖センサーです。アメリカで初めに商品化されたのが2001年なので、若い技術者がいるに違いないと思い、関連する学術論文や特許を探していったのです。
すると驚くべきことに、いろいろな特許や論文の引用をたどっていくと、日本のNECと防衛医科大学校に行きついたのです。防衛医科大学の菊地眞先生(当時)とNECにいた伊藤成史さんのチームが、世界で初めて、間質液(細胞と細胞の間にある液体)で血糖値を連続的に測れることを実証し、素晴らしい特許ポートフォリオを作り上げていたのです。
現在ではCGMは6000億円市場となり、CGMのスタートアップのDexcomなどは企業価値が5兆円を超えています。
稀有な人材を発掘
井上:それはすごい。そのような方々が日本にいるのですね。
関水:連続血糖モニタリングのアイデアを最初に出したのはアメリカのUpdike博士ですが、それは血液を直接測定するもので、実用化には厳しいものでした。菊地先生は間質液の可能性に目を付け、NECの伊藤さんがその測定を随一の技術で実現したのです。
この2人が世界で初めてCGMを実用化したことは、ほとんど知られていません。
伊藤さんはNECがヘルスケア事業から撤退したのに伴い、タニタに出向となり、そこで今度は世界初のデジタル尿糖計の上市に成功します。基礎研究から薬事からマーケティングまで、全部経験した稀有な人材なのです。こういう人は世界中探しても、ほとんどいない。
こんなに優秀な人は世界で活躍するべきです。私は、諸葛孔明を発掘した劉備玄徳の気持ちでした。伊藤さんの元に1年間ほど通い詰めて、ProvigateのCTO(最高技術責任者)になっていただきました。彼の同志だった池田悟さんもその後入社することになります。
Provigateのものづくりを支えているのは、このような「日本の宝」ともいえる、いぶし銀の技術者たちです。伊藤さんがCTOになってくれて、彼のバディ(相棒)だった池田悟さんも入社してくれた。2人とも、わが社のものづくりの中心人物となっています。
井上:最強のチームですね。その間質液による連続グルコースモニタリングの技術で突き進んだわけでしょうか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら