井上:レスポンスの早い糖化アルブミン(GA)で「平均血糖値」を見ることで、レコーディングダイエットのように、生活習慣を改めることができるようになるんですね。
この画期的なアイデアに至るまでの道のりを改めて振り返ってみて、どんな感じですか。
関水:秘境の山登りに近いです。雲の切れ間にちらりと見える頂上はとてつもなく高い。糖尿病という山は見えているのですが、山の天候は変わりやすい。進んでみて初めてわかる断崖絶壁もあれば、雪崩に巻き込まれ死にかけることもあります。必死になって足場を確保して登っていくと、いきなりルートが目前に現れ、「次の手がここにあったか」となる連続です。
「糖尿病」というチョモランマ級の未踏の山に挑み続けることは、創業時から一貫しています。最初は目の前の狭い範囲しか見えておらず、涙糖にまずは取り組んだのです。しかし、正解のルートは涙糖ではなく糖化アルブミンでした。
私たちは糖尿病という巨大な山をあきらめずにアタックし続けたことによって、「週次GAモニタリング」というアプローチを見出すことができたのです。
優秀なチームが自律的にサイエンスする
井上:それは方向転換、ピボットですね。課題が大きいほうがピボットはうまくいくというのは、とても意外な話にも思えますね。
今、日本経済においてどうやってメガベンチャーを育てていくのかが課題になっています。お話を伺うと、天才たちが大きな社会的な課題に向かっていけばうまくいく、という仮説をいただいたような気がします。
関水:もちろん確実にうまくいく方法などはありません。
プロ野球の野村克也監督の言葉で、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と言われます。私はその通りと思います。しかし、打率を上げる確実な方法ならばあるのかもしれません。
第一に、極めて優秀なチームを集結することが何よりも大事です。特に開発のリーダーはトリプルAクラスであってほしい。そのチームが、解決可能で巨大な課題に、愉快に立ち向かうための指針を示すことです。
経営者が心血を注ぐべきは、優秀なチームが自律的に、自由にサイエンスをできる環境を提供することです。そして、そのストレスのない場を運営するための潤沢な資金の獲得です。これらの要素が集まれば、3割打者には十分になれるはずです。
1970年代から80年代のバイオの幕開けの時代に、ジェネンテックをはじめとした時代の先駆者たちが取り組んだことは、まさにこのようなことだったはずです。
井上:なるほど、確かに。政府も燃料のことを意識していて、ディープテック・スタートアップ支援事業で1000億円を打ち出していますね。シードを短く、Jカーブ(スタートアップの利益が初期の赤字から短期間で急成長する曲線)を深掘りすることで、シード投資家のファンド満期内に大型のエグジットを目指しています。
「Invented in Japan, Innovated in the World」ばかりだと、さすがにくやしいですよね。関水さんが成功の方程式を自ら検証しようとする姿を応援する読者もたくさんいると思います。
経営学者・井上達彦の眼
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