血糖値の測り方が変われば糖尿病のケアが変わる Provigateは稀有なチームで未踏の山に挑む

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関水:いえ、私たちは針を刺さなくても検体が取れる涙に注目しました。チームの努力により、涙糖を正確に測定できるセンサーは完成したのですが、臨床研究を行うと困難に直面します。

まず、涙糖は採取条件によって濃度がかなりブレます。センサーの性能は十分で測定は正確です。しかし朝と夜で濃度が数十倍違ったりするのです。これは先行文献を読む限りではわからないことでした。

しかし「そもそも血糖値を測定する意味は何か」という根源的な問いのほうが、はるかに根が深いものでした。

井上:血糖値を測定する意味? それはどういうことでしょうか。

関水:血糖モニタリングというと、皆さん「血糖を測定して、高かったら食事を変えたり薬を飲んだりする」といった単純なイメージをお持ちの方が多いのですが、実際には血糖モニタリングにはさまざまな目的があります。

今日の自己血糖測定器は、基本的には随時血糖を測定することで、インスリンの投与量を決め、低血糖を回避することが主な目的です。そのため、これらの機械を使うのは、主にインスリンの利用者に限られています。

日本の場合、糖尿病のある方の9割はインスリンを使っていませんので、9割の患者さんは自己血糖測定器が保険適用外で、1~3カ月に一度の通院時しか血糖を知ることができません。

インスリンなどの副作用による低血糖は非常に危険です。しかし、もう一つ忘れてはならないのは長期の合併症です。血糖値が高過ぎると血管の内側で炎症を起こします。炎症と修復を長年繰り返すと、動脈硬化が進みます。

そうすると、「しめじ」と呼ばれる三大合併症「神経症」「網膜症」「腎症」のリスクが高まり、重症化すると失明や透析、手足の切断や、最悪の場合には脳梗塞・心筋梗塞で死に至ります。日本の中途失明の15%弱、人工透析の半分弱は糖尿病です。

井上:本当に恐ろしいですよね。

大事なのは「何をどう測るか」

関水:こういった合併症を防ぐためには、瞬間を切り取った随時血糖だけ見ても不十分です。血管障害のリスクを評価するためには、血管への血糖のトータルの「被ばく量」をモニタリングしなければなりません。言い換えれば、平均血糖値モニタリングが重要です。

井上:なるほど。そうだとすると私も読者の皆さんも、現代の医療において平均血糖値が測られているかどうかが気になりますね。

関水:もちろん平均血糖値は測定されています。主に利用されているのは、糖化ヘモグロビン(HbA1c)というバイオマーカーです。赤血球に含まれるヘモグロビンに結合したグルコースの分子数を数えることで、平均血糖値を間接的に知ることができます。

しかし、赤血球は寿命が120日と長いので、糖化ヘモグロビンの糖化比率も非常にゆるやかに変化します。1~2カ月の平均血糖を反映すると言われています。従って、病院では過去数カ月の「平均血糖」をベースに問診を行わざるをえません。

患者の立場からすれば、数カ月に一度だけの「期末試験」の結果をもとに、生活習慣を顧みる難しさがあります。

井上:そうなんですか? そんな実態だとは知りませんでした。

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