関水:社会一般には、「糖尿病のある人は日常的に血糖を測定している」というイメージをお持ちの方が多いように感じます。しかし、実際には、日本の場合だと9割の患者さんは、1~3カ月に一度の通院時のみの測定です。少ない人ですと3カ月に一度の「期末試験」しか受けていないようなものです。
日々の行動変容を細かく「小テスト」で確認し、生活習慣に反映することができないのです。
このような当たり前の「アンメット(満たされていない)メディカルニーズ」が社会的に顧みられていないという事実は、「血糖モニタリングの課題は、針を刺す痛みだ」という紋切り型の発想で始めた当初は全く気がつきませんでした。痛みよりも先に解決しなければならない臨床課題がそこにはあったのです。
井上:まさに臨床という現場にいたからこその気づきですね。ビジネスモデルづくりでも、顧客への価値の提案においては、現場での気づきや顧客洞察が大切だとされます。
「お金が集まる流行のコンセプト」は捨てた
関水:私たちは、当初は涙のグルコース、しかも「コンタクトレンズで測定できます」というおしゃれなコンセプトから入りました。おしゃれなコンセプトは、やはりお金が集まりやすいんです(笑)。流行ってありますよね。わかりやすさともいえるかもしれません。
私たちの技術も当初はおしゃれだったわけです。しかし「それ、本当に必要?」といった本質的課題を考えることは極めて重要です。糖尿病のある方にとっては、おしゃれに無痛で涙糖を測定することではなく、そもそも平均血糖をモニタリングしていない、という「忌々しき事態」を解決することのほうがはるかに重要だったのです。
井上:なるほど、おしゃれなことは必ずしも利用者には求められていないということですね。平均血糖値についてはどのように対応したんですか。
関水:創業以前から連携している東大病院の糖尿病・代謝内科の窪田直人先生や相原允一先生とうんうん唸って考え、糖化アルブミン(GA)で測定するのがよいのではないかという話になりました。公的資金の支援も受けて、涙液GAや唾液GAが血液GAと同等に使えることがわかってきました。
現在は、東大病院の検査部の安川惠子先生とも連携し、測定法の開発を進めています。
糖化アルブミン(GA)の良さは、糖化ヘモグロビン(HbA1c)よりもはるかにレスポンスが早い点です。HbA1cでは、行動変容をしても結果がわかるのは数カ月後ですし、しかも、その期間努力を継続する必要があります。成果の見えない努力ほどつらいものはありません。
一方で、GAは数日の行動変容の成果をレスポンス良く反映します。「今週は食べ過ぎたな」という自覚のある週はGA値が上昇し、「今週は先週よりもバランスの良い生活習慣だった!」という自覚のある週はGA値が低下します。HbA1cが数カ月に一度の「期末試験」だとすれば、GAは日常的な行動変容のフィードバックに最適な「小テスト」というわけです。
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