育児をしながら「長編映画監督」やり遂げられた訳 マッドハウス渡邉こと乃さんが今思うこと

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(写真:woman type)
渡邉さん:ここからどんどん制作を進めていくぞ! というタイミングで非常事態宣言が出され、どうやってアニメ制作を進めていくのか考え直さなければいけなくなりました。
しかも、私も含めて制作スタッフの人たちの中には子育て中の人が複数いたので、学校がお休みになったり、自宅学習に切り替えたりして、子どものいる家で仕事をするのも難しくて……。
仕事がしたいのに思うようにできない状況に、フラストレーションがたまることもありました。 

ただ、コロナ禍で直面した壁はチーム全体の課題。スタッフみんなが同じ状況だったからこそ、「この困難を一緒に乗り越えていくしかない」とチームの結束力は強まったという。

また、監督を引き受けることを決めた当初に心配していた育児と仕事の両立は、チーム体制を工夫することで乗り越えた。

渡邉さん:過去に長編映画の監督経験のある方に制作チームに入っていただいたり、関わってきた監督たちにコンテや演出に入ってもらったり、『もしも』のときに頼れる皆さんががっちり脇を固めてくれました。
最初から最後まで一人でやり切ろうとしたら絶対に乗り越えられなかったと思うのですが、経験のある人をうまく頼ったり、自分がどうしてもできない部分はスタッフに任せたり、周囲と協力することを心掛けたからこそこの作品を完成までもっていけたのかなと思います。 

誰かが道を切り開き、ロールモデルになっていく必要性

これまでは、「監督なんだから、人一倍働かなければ」「スタッフの誰より仕事をしなければ」という気負いもあった。ただ、本作を作り終えた今、渡邉さんが感じているのは「一人でやろうとしない」ことの大切さだ。 

渡邉さん:子どもを育てながらだと、物理的に「仕事100%」の状態ではいられないし、出産前と同じような働き方はしたくてもできない。そんな中で、「自分が監督をやるならどうすればいいか」から考えてチームを組んだり、うまく周囲を頼る働き方で制作を進めていくような前例がつくれたのは良かったなと思うんですよ。
もちろん、それでチームに負担をかけた部分もあると思うんですけど、「そうしていい」「そうやってやる人もいる」という前例ができないと、後身の女性クリエーターたちが出産後も活躍していくのは難しくなってしまいますから。 

そのためにも、「誰かが道を切り開いて、ロールモデルになっていく必要がある」と渡邉さんは続ける。

渡邉さん:世の中の働き方改革の流れを受けてアニメ業界も変わりつつありますが、出産を機にやりたい仕事をあきらめたり、仕事を優先して結婚・出産をあきらめたりする女性がいるのも事実です。
だから、「そうしないでいいんだよ」って、私の働き方を通して言えたらうれしいですね。
本来、会社としても貴重な人材を失うようなことはしたくないはずですから、両立に不安があるならまずは相談してみるといいと思います。 
渡邉さん:そして、「こんなことをやってみたい」「こういう働き方でそれをかなえたい」という意志を発信して、女性たちから働き掛けていくことも必要なのかなと思いますね。
そうすれば、会社も必要なアクションが何かということに気付き、結果的に女性だけでなくいろいろな事情を抱えた人たちが働きやすい環境に変わっていくはずですから。
次ページアニメ業界は転換期。多様な人材が活躍できる場に 
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