脱「経験・勘・気合」、戸田市が今「教育総合データベース」構築に心血注ぐ訳 教育データ利活用で不登校などプッシュ型支援

なぜ戸田市は「教育総合データベース」を作り始めたのか?
約70にも上る産官学連携の「戸田市SEEP(Subject、EdTech、EBPM、PBL)プロジェクト」など、先進的な取り組みを次々と推進してきた埼玉県戸田市教育委員会。教育長の戸ヶ﨑勤氏は、中央教育審議会をはじめさまざまな政府委員も務める、教育界のキーパーソンの一人である。

戸田市教育委員会 教育長
中学校教諭、小中学校校長、戸田市および埼玉県教育委員会指導主事などを経て、2015年より現職。文部科学省「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」委員など、複数の委員も務める
そんな戸ヶ﨑氏が今、力を入れていることの1つが、「教育総合データベース」の構築だ。その構想のきっかけについて戸ヶ﨑氏は、こう語る。
「中央教育審議会の第3期(2018~22年度)教育振興基本計画の会議で、EBPM(Evidence Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)というキーワードが出てきた際、これは自治体でもやらなければ駄目だと思いました。教育は経験と勘と気合の“3K”で続いてきましたが、深刻な教員不足の中、こうした職人型のスキル継承では、学校は持続不可能です。先生によって当たり外れがあっては、子どもたちがかわいそうです。若手がみんな一定のスキルを身に付けられるようにするためにも、教育の現場は黒魔術ではなく科学的であるべきで、教育データが根拠として重要になると考えました」
警察の捜査や医師の診断などでも客観的データやサイエンスが活用されているのに、教育の世界にはいまだにそういった視点がないことも疑問に感じていた。教師の経験や勘、指導技術を言語化・可視化・定量化し、暗黙知を共有したり形式知へ転換したりすることで、若手に効率的・効果的に伝承したい――そんな思いから、EBPMの推進をスタートさせたという。
現在は、EBPMからエビデンスを“参照”して政策・実践する「EIPP(Evidence Informed Policy and Practice)」の視点にシフトし、量的研究と質的研究の双方を重視してさまざまな取り組みを行っている。例えばこれまで、リーディングスキルの視点からの授業改善や、児童生徒の学力を伸ばしている教師へのインタビューを基にした指導用ルーブリックの作成などの研究を行ってきた。