スタンプカード「最初から押してある」納得のワケ 進捗状況は人間の「やる気」を大きく左右する

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大学生の場合も、毎年の履修を無事に終えるたび、講義を履修することのインパクトは大きくなったと感じる。学位取得という目的に向けて、残りの単位がだんだん少なくなるので、単位1つの占める割合が大きくなるからだ。

1年目を修了したときには、4年間の学業のうち25%を獲得している。最終学年では100%を獲得する。4年目は学位のまるごとを手に入れるのだから、入学式から始まる1年間よりも、4年目の1年間は、はるかにリターンが大きい。

欲しいのが無料のコーヒーでも、学位でも、前進すればするほど、払う労力に対する見返りが大きくなる。元がとれるどころかお釣りがくる感覚だ。

進捗が幻だったとしても、モチベーションを高める効果はある。実際よりも目標に近づいているという気持ちになるからだ。

たとえば大学1年目を終える時点で、大学に願書を出した時期――アメリカならば、たいてい入学のまる1年前だ――を起点として自分の進捗を測ったとしたら、学位取得まで40%来たという感覚を抱く。その大学で学位を取得するという目標が生まれた時点から、目標達成まで、この場合で言うと5年間のうち2年間が済んだからだ。

実際に入学してからの進捗で測れば、1年目が終わった時点で25%しか済んでいない。つまり、進捗が幻想でもモチベーションは高まるのだが、進捗の測り方には注意が必要なのだ。

「幻想の進捗」がもたらす効果

目標までの距離に対し、進捗の割合を過大に認識すると、実際よりもゴールに近いという錯覚を抱く。

カフェのポイントカードの例に戻って考えてみたい。ラン・キヴェツ、オレグ・ウルミンスキー、郑毓煌(チョン・ユーホアン)の研究では、ニューヨークにある本物のカフェの協力を得て、幻想の進捗がもたらす動機づけ効果の実験をした。

カフェを利用する客に、10杯買ったら1杯無料になるポイントカードを渡す。半数の客には、スタンプを押すマス目が10個あるカードを渡した。別の半数の客には、マス目が12個あるカードを渡した。ただし、12個のほうはあらかじめ2個のマスに、「ボーナスポイント」としてスタンプが押されている。

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