米国の株価を大きく下落させる「2つのリスク」 市場のソフトランディング予想は楽観的すぎる
もちろん、この先、リスクが現実のものとなり、経済活動が大きく落ち込んでしまうことがあれば、企業業績の悪化も伴う形で市場には売り圧力が強まる。しかしながら、それはある程度想定された範囲内のものであり、市場がパニックに陥るような急落ではなく、比較的穏やかな下落が続くという形となることも十分に考えられる。
現時点で市場は経済指標に対し、強気の数字が出ればインフレ懸念を高めるという理由で売りが膨らみ、弱気の数字が飛び出せばFRBの緩和転換が速まるということから買いが集まるという反応を示すことが多い。いわゆる、「良いニュースは悪い材料、悪いニュースは良い材料」 と言われているパターンだ。しかしながら、今後リセッションのリスクを市場が本格的に織り込みにかかってくるなら、経済指標の弱気サプライズなどの悪いニュースに対して、素直に売り圧力が強まる場面が多く見られるようになってくるのではないか。
インフレが高止まりするリスクは織り込まれていない
一方、後者の「インフレが今の水準より一段と進んでしまう、あるいは高止まりするリスク」は、現時点で市場にまったくと言っていいほど織り込まれていない。それだけに、そうした流れが出てきた際には反応もかなり大きなものとなる可能性が高いと見ておくべきだ。
そこで気になるのは、市場のインフレ期待 (Inflation Expectation) と呼ばれるものだ。インフレ期待の高まりは、需給バランスなどのファンダメンタルズに関係なく、それ自体がインフレを呼び込んでしまうとされている。みんながみんなこの先インフレが進むと考えれば、それだけで実際に物価が上昇してしまうという可能性があるということであり、FRBが警戒している指標の1つとなっている。
インフレ期待は、これだという特定の指標があるわけではなく、複数のデータから推し量るしかないのだが、その1つとされるのがミシガン大学消費者態度指数のインフレ予想だ。11月11日に発表された11月の速報値では、1年後のインフレ予想(期待)が5.1%と4カ月ぶりの高水準に、5年先の予想も3.0%と、5カ月ぶりの高水準にそれぞれ上昇した(その後、確定値では1年後のインフレ予想が4.9%と下方修正された)。
また、企業の景況感指数にも注意が必要だ。実は企業のコストを反映する支払い価格指数は10月に入って上昇に転じたものが多くなっている。「ブレークイーブンインフレ率」と呼ばれる、通常国債とインフレ連動債(TIPS)の利回りを差し引いた値も、9月末に2.14という当面の底値をつけて以降、一時はジワジワと上昇、底割れはしていない。
前出の10月CPIは、6月分の総合指数が前年比9.0%の上昇となって以降、4カ月連続で伸びが鈍ってきており、10月分は7.8%と、ついに8%台を割り込んだ。これを見る限りでは、すでにインフレがピークをつけたと判断してもよいのかもしれない。だが、一方でコア指数は8月分以降、3カ月連続して前年比で6%を上回る高い水準を維持している。
とくにCPI全体の3分の1というウェートを占める家賃や帰属家賃といった住居関連費の上昇はなお継続、家賃は2021年7月、帰属家賃は2021年3月分から前月を上回る伸びが続いている。
先に指摘したインフレ期待の高まりなどを考えれば、インフレ圧力がこの先改めて強まる可能性もなお否定することはできない。もしCPIが前年比で高い値の伸びが続くのであれば、当然ながら政策金利の引き上げも5%で止まることはなく、株式市場も再度値を崩しかねない。足元のデータを見る限り、インフレがそこまで高まる可能性はかなり低いとは思われるが、まったくゼロというわけではない。市場のインフレ期待や原油相場の推移には、引き続き注意を払う必要がある。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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