戦況も好転せず、国民の間で戦争への不満も芽生え始めているという苦しい中で、クレムリン内では、プーチン氏がいまや、政権維持装置として2人の部下に強く依存する新たな権力構造が生まれている。2人とは、民間軍事会社ワグネルの創始者であるプリゴジン氏とチェチェン共和国のカディロフ首長だ。
ロシア連邦保安局(FSB)出身のプーチン氏にとって、これまで大きな権力基盤は情報機関であり、軍部だった。しかし両機関は、クレムリンからは侵攻での苦境をもたらした戦犯扱いされており、プーチン氏としては、より実行力のあるプリゴジン氏とカディロフ氏に頼らざるをえなくなっている。
侵攻作戦の中で失態を繰り返す軍部と異なり、各戦線でウクライナ軍と張り合っているワグネル部隊を率いるプリゴジン氏をプーチン氏が頼もしく思っているのだろう。プリゴジン氏は兵員不足を補う苦肉の策である、受刑者の動員でも先頭に立っている。カディロフ氏率いるチェチェン人部隊も戦力として目立っている。
プーチン側近による自軍批判
この依存関係を物語るように、プリゴジン氏とカディロフ氏の言動は次第に過激になってきている。2人とも作戦や軍幹部への批判も繰り返している。
プリゴジン氏は2022年11月7日、ワグネル社がアメリカの選挙に干渉してきたとあけすけに述べ、アメリカのメディアを驚かせた。従来、クレムリンで陰の存在だったプリゴジン氏のこれ見よがしの言動は、部下が目立った行動をすることを嫌うプーチン氏にとって、従来なら許されないはずの行動だ。それだけ、プリゴジン氏には行動に一定の自由が認められているということだろう。
もはや誰の政治的介入も許さないという「強い独裁者プーチン」のイメージは消えている。
クレムリン内部でこうした政権の立て直しを進める一方で、プーチン氏として目下の最大の関心時はウクライナ側との間で何らかの停戦交渉にこぎつけることだろう。
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