評者・帝京大学教授 渡邊啓貴
紀元前5世紀ごろから記録に残るケルト文化は、キリスト教普及以前のヨーロッパの基層文化として知られる。ただし、実態は謎の部分が多く、しばしば幻想的な世界として語られてきた。
本書は、ケルト文化理解の初歩からそのさまざまな側面まで多くの発見がある。取り上げるのは、ケルト文化地域の確定やハロウィンの由来、三つ葉のクローバーを使って三位一体を説いたアイルランドの守護聖人パトリック、十字を円でつないだ石のハイクロス(ケルト十字架)、巨石文化、緑の騎士など。
ケルト文化理解の初歩から定説を覆す新しい解釈まで
ケルトの異界と神話、5〜6世紀ブリテン島を統一したアーサー王の伝説とアイルランド系神話との親近性といったなじみ深いトピックがイラストを使って説明される。基礎には定説を覆すいくつもの新しい解釈があり、ケルト研究の最先端に切り込む野心の片鱗ものぞかせる。
例えば、ケルト文化の起源は従来ヨーロッパ中部のハルシュタット文化やラテーヌ文化にあるとされてきたが、近年の研究では大西洋沿岸地域の巨石文化が起源と考えられている。ケルト美術はラテーヌ文化の延長というよりもゲルマン系などの北方文化との融合である。古代ケルトの宗教(者)とされてきたドルイドはむしろ身分の高い為政者・賢者であった、という具合だ。
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