[Book Review 今週のラインナップ]
・『日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか』
・『亀裂 創業家の悲劇』
・『悪党たちの中華帝国』
評者・上智大学准教授 中里 透
コロナ前を振り返ると、低成長・低インフレ・低金利を基調とする長期停滞が、現実の問題として懸念されていた。だが、コロナ禍を経て多くの国で物価高が社会問題となり、経済の位相は大きく変わったように見える。
もっとも、現在の日本についてみると、「物価高」は資源価格の高騰を起点とする海外発のもので、経済活動は依然としてコロナ前(2019年10月の消費増税前)の水準まで回復していない。こうした中、日米金利差の拡大などを受けて円安が進行し、政府と日本銀行は難しい舵取りを迫られている。
景気回復の遅れと足元の物価高のもとで、日本経済の先行きはどう見通せばよいのか。本書はこの点について有益な手がかりを与えてくれる。
物価上昇と上がらない賃金 「残念な日本経済」に迫る
本書の記述を貫く基本的な認識は、日本のような先進国では低成長が常態であり、物価や金利が一時的に上振れすることはあったとしても、早晩、低インフレ・低金利の状態に引き戻されることになるというものだ。足元、消費者物価指数の上昇率は2%を上回って推移しているが、コストプッシュ型のインフレには持続性がないと著者は言う。その背景には、物価上昇に賃金が追いつかない、残念な日本経済の姿がある。
本書の特徴は、オーソドックスな経済分析の枠組みに立脚しつつも、よくある「主流派」の通説とは一線を画し、独自の視点から興味深い見解が示されていることだ。それは財政政策をめぐる議論に端的に表れている。
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