黒人男子を「リトルモンキー」と呼んだ議員の末路 ロス市民が激昂した差別発言のオンパレード

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ジャクソンさんは、自身が3歳ぐらいの頃から、母親に「いつか誰かに黒人侮蔑用語や差別語を投げつけられることがあっても、あなたが悪いのではない。差別をする人が間違っているんだよ」と繰り返し言われて育った。

その後ロスで教師として働く中で、黒人の小学生たちの多くが、差別された経験から心にトラウマを抱えて傷ついている様子を目撃してきた。「差別と政治権力が結びついた時、その加害は最大に拡大する」とジャクソンさんは言う。

ロスの公立小中学校で教師を務めたニッキ・ジャクソンさん(写真:筆者撮影)

今回のリーク録音の会話をじっくりと聴いてみると、マルティネス議員とその他2名の議員らは「10年に1度行われる行政地区の再編成」をめぐって、策略を練っていたことがわかる。

「リディストリクト」と呼ばれるこの地区再調整は、ロス市内にある15地区の区画の線引きを、最新の国勢調査の結果に基づいて、再度やり直すというもの。特定の地区に経済力や政治力が偏らないための調整なのだが、マルティネス議員らにとっては、自分が代表する地区に主要ビジネスや空港や有力大学などをキープするように線引きすることで、政治力と発言力を拡大し、再選への布石にする絶好の機会だったようだ。

ロス市の人種別の人口比を見ると、48%がヒスパニック系、29%が白人、11%がアジア系、9%が黒人で、ヒスパニック系の割合は過去40年で倍になっている。黒人や白人の政治パワーを押さえ込んで圧縮することで、ヒスパニック系の勢力を増大しようというのがマルティネス議員の狙いだというのはリーク音声の会話から伝わってくる。

アジア系への差別発言がなかったワケ

マルティネス議員が目の敵にしているのは、黒人、白人、LGBTQや先住民族と実に広範囲にわたっているが、今回、筆者が録音を聴いた限りでは、アジア系への差別は見あたらなかった。

日系アメリカ人の人権団体「ジャパニーズ・アメリカン・シチズンズ・リーグ」のサウスベイ支部のプレジデントを務めるケント・カワイ氏はこう分析する。

「今回の彼女の発言の中にアジア系への攻撃がないのは、アジア系住民にとっては一見、いいことのように見える。だが、実は、ロス市議会の中で、アジア系の政治的勢力が弱すぎて、わざわざ攻撃するまでもないと無視されているに過ぎない、と言える」

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