9月末、イギリスの大幅減税など財政拡張政策が引き金となり、金融市場が混乱した。世界第2位の規模の対外純債務国であるイギリスは、市場の声に逆らうわけにはいかない。
金融市場の関心はもっぱらイギリスに移った感がある。トラス新政権の「拡張財政+金融引き締め」というポリシーミックスはイギリスに限らず、同じくエネルギー高に苦しむ大陸欧州諸国、そして家計支援を盛り込んだインフレ抑制法案などを志向するアメリカにおいても程度の差こそあれ、採用されているものだ。
具体的には金融引き締め(利上げ)で内需にブレーキをかけたうえ、通貨高も促すことでインフレ圧力の減退を狙う一方、財政拡張を行って内需の大崩れを防ぐためにアクセルを踏むという構図である(図1)。矛盾しているとはいえ、実体経済に大きな段差を生じさせないためには、こうしたブレーキとアクセルを交互に踏むような経済政策運営も相応に理解できる。
問題はアクセルの程度であり、トラス新政権は公約で掲げられていた減税幅である300億ポンドでも懸念があったところ、これを上回る450億ポンドという案が出てきた。この点に関し、金融市場はスピード違反(アクセル踏みすぎ)を察知したというのが現状と見受けられる。
警告に耳を貸さないトラス政権
このままの状況が放置されれば、イギリスは減税で内需を支えようにも、そのプラス効果が金利急騰とポンド安、ポンド安を通じたインフレ悪化のマイナス効果でかき消されてしまう公算が大きい。
9月27日、IMF(国際通貨基金)は英国政府に対し減税案の見直しを求める声明を発表し、格付け会社も格下げを匂わせ始めている。拡張財政案の裏づけとなる財源に当てがない以上、こうした警告は妥当と言わざるをえない。金融市場の動きもこれに沿っている。
しかし、今のところトラス政権が方針転換に動く気配はない。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
無料会員登録はこちら
ログインはこちら