大規模減税計画引金に英国が危機に陥ったわけ 経済的無学をさらけ出した一連の判断の最新例
英国は自ら招いた金融危機のさなかにあり、それはリセッション(景気後退)入りへの急降下を加速させることになりかねない。そして、トラス首相は危機の引き金となった大型減税案を見直すよう、強い圧力に直面している。
英政府が先週末、1972年以来の大規模減税計画を打ち出す一方、その資金繰りの詳細はほとんど示さなかったのを受け、ポンドは対ドルで過去最安値を更新し、英国債の保証コストを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは2016年以来の高水準に上昇。年金基金への影響にも懸念が生じ、イングランド銀行(英中央銀行)は国債市場への介入を余儀なくされた。
今後の展開は英経済がどの程度深刻なリセッションに陥る可能性があるかを左右すると考えられ、3週間ほど前に発足したばかりのトラス政権が投資家の信頼を回復することができるかどうかがその大きな鍵を握る。
約40年ぶりの物価高騰を英中銀が制御できずにいる状況にあって、23日に発表された補正予算案は、財源の裏付けのない減税案を巡り投資家の短期的な懸念を引き起こしただけではない。それは経常収支赤字や欧州連合(EU)をはじめとする主要貿易相手との困難な関係に加え、特に歴代政治指導者らの公約への不信といった英国への長年の不安をあらためて浮き彫りにした。
ユニオン・バンケール・プリベ(UBP)のFX戦略グローバル責任者、ピーター・キンセラ氏(ロンドン在勤)は「ブレグジット(英国のEU離脱)を皮切りに、自ら下した経済的無学をさらけ出す一連の判断の最新例」と評した。
英中銀は英国債相場の暴落を回避するための行動を迫られ、トラス首相がこの数カ月間批判していたような種類の政策手段も動員。市場の秩序回復に必要なだけの長期国債の無制限買い入れを約束した。これを受けて長期国債は反発したものの、二つのリスクを高めることになった。それは英中銀が数週間以内に一段の追加利上げを強いられる可能性と、中銀が政府の財政赤字の穴埋めに動いているのではないかと投資家の間に警戒感が広がるリスクだ。
ベレンベルクのシニアエコノミスト、カラム・ ピカリング氏は英中銀の最新の行動について、政府のために当面の「信認回復の時間」を稼いだとみる。
英政府がその時間をどう使うかが極めて重要となる。ロンドンの金融街シティーの銀行首脳らはクワーテング財務相に対し、11月23日に予定している財政計画の詳細発表の前に市場に安心感を与えるよう訴えた。今月23日以降、公の場に姿を現していないトラス首相は来週、就任後初めて保守党の会議で演説する準備をしている。
1976年に英国救済に乗り出した国際通貨基金(IMF)はすでに政府に減税案の再考を呼び掛け、著名経済学者からは英国が新興市場国の様相を呈していると警告の声が相次いでいる。
トラス首相にとって問題なのは、大型減税を政権公約の目玉に掲げたことだ。トラス氏は保守党の一般党員の支持のおかげで党首選に勝利して首相に就任しただけに、政権発足間もない段階での方針転換となれば政治的には致命的だ。同党下院議員の大部分はトラス氏を党首選で支持しておらず、政権の政策が将来の総選挙で自分たちの敗北につながると認識すれば、首相への反発を招く可能性がある。
トラス首相の大型減税案は、富裕層が富めば経済活動の活発化で貧困層にもそれが波及して全般が潤うとする「トリクルダウン理論」に依拠したものと考えられ、英国民は首相の賭けが効果を生むか静観することになる。ただ、借り入れコストの劇的な上昇に伴い、住宅市場の暴落や、リセッションに陥った場合の深刻化のほか、一連の公共支出削減といった可能性に直面することにもなりかねない。
この記事についての取材に対し、英財務省はコメントを控えた。
原題:
Britain’s Crisis of Confidence Was Years in the Making(抜粋)
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著者:Philip Aldrick、Libby Cherry、David Goodman
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