ノーベル賞受賞の理論で「待機児童問題」を解決へ 「希望通りの園に行かせたい」親の希望叶える

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ちなみに、極めて市場原理に近い仕組みもあって、私が前にいたアメリカだと、スタンフォードの大学に付属している保育園に子どもを入れるには、大学からもらった給料の大部分をつぎ込まなくてはならないほどの保育料がかかります。こうしたごく一部のお金がある人しか預けられない仕組みは望ましくないと、日本では社会的合意がなされているといえます。

日本の保育園はある程度平等に行けるようになっていますが、保育園の数には限りがあります。そのため、誰をどこの保育園に受け入れるかを自治体が決めています。

具体的には、親の勤務形態や家族構成などを基準に点数を決め、その点数が高い順に希望の保育園に入れるようにしています。これは、地方政治を担っている自治体が決定を下して、それに私たちが従っているという点で、ある種の社会主義的な制度だといえます。

こういう例は、教育の現場ではよく見られます。

たとえば東大が学生を選抜するときに、学費を多く払える人に来てもらうのではなく、入学試験をやっている。これも資本主義的な制度ではないといえるかもしれません。現状の年間約54万円の授業料を払っても大学に入りたいという人が定員を大きく上回っているなら、授業料をどんどん上げていき、価格で需給調整をしていけばいい、という考え方もありますが、そうなってはいないわけです。

このように、資本主義的な市場制度を用いることができない場面で、社会主義的に特定の人や組織が分配を決めている制度もあるのです。しかし問題は、そうした分配が必ずしも多くの人の要望を叶えるものになっていないこと。そのため、先ほどの保育園の例だと、「保育園落ちた日本死ね!!!」といったブログにたくさんの共感が集まる事態になっています。

また親側が、点数を上げて希望の保育園に入れるよう、「本当は時短勤務なのに、フルタイム勤務だと申請する」というような噓をついてしまうという問題も起こっているといわれています。

ミスマッチをなくし満足度を高める 

そうした問題を解決すべく、私が研究している「マッチング理論」では、いわば資本主義と社会主義のミドルグラウンドで制度を組み立てていきます。社会主義的に分配が行われている仕組みに対して、資本主義的な疑似市場を取り入れることで、よりよい制度になるよう調整していくのです。

私なりの解釈ですが、マッチング理論の根底には、「制度を憎んで人を憎まず」という考え方があると思っています。希望の保育園に入りたいからと嘘をつく親たちも、現状の制度の中で最善を尽くそうとしているわけで、この人たちを責めても始まらない。むしろ、制度自体を変えて、噓をつかなくても、なるべく多くの人が希望の保育園に入れるようにしてあげることが必要です。

社会で何か問題が起きているとき、私たちはよく、「自治体の職員が悪い」「親が悪い」と、原因を「人」に求めてしまいがちですが、マッチング理論では、「制度」や「仕組み」を改善していくことで問題解決を目指していくのです。

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