世界が固唾を飲んで見守る欧州の最大危機

EUで一気に噴き出す矛盾

そしてフランス。主要国ながら財政規律が不十分だとEUから警告されており、国内ではEU離脱に加え移民排斥を掲げる極右政党・国民戦線が勢いを増している。週刊紙シャルリー・エブド襲撃事件もあり、移民への風当たりは強くなっている。パリの街には銃を持った警官が立ち、イスラム系だけでなくユダヤ系住民への差別や偏見も根強い。

移民の増加を経済成長にうまく結び付けられないのは、構造改革が進んでいないからだ。労働組合組織率が1割にも満たないのに、雇用規制が厳しく労働者の移動が制限されているため、失業率が25%と高い。かつて旧東独を旧西独が統一したドイツが「欧州の病人」と言われ苦しんだが、それはいまやフランスの代名詞となりつつある。

一方、ユーロ安を追い風に、自動車や電機など輸出企業を軸に経済では独り勝ちを謳歌するドイツも、国内では5人に1人が貧困層という社会の二極化に悩まされている。2017年にはドイツで総選挙、フランスで大統領選挙が予定されている。英国の国民投票の可能性も合わせ、2017年はEU主要国の国政選挙で欧州統合の形が問われることになる。

「バベルの塔」を避けられるか

興味深いのは各国のEU懐疑派の党首がすべて欧州議会の議員であることだ(真のフィンランド人党のソイニ党首、ポデモスのイグレシアス党首、UKIPのファラージ党首、国民戦線のルペン党首)。ルペン党首は仏大統領選挙でも決選投票に持ち込みそうな勢いだ。

EUは連邦国家ではない。文化、民族、言語が異なり、政治主権を持った28カ国の連合体だ。統一通貨ユーロを採用している18カ国でも、財政政策はなお各国が保持したまま。だからギリシャ危機のような矛盾が起きてしまう。

民意がEUの政策運営に反映されない、もしくはEUの政治力が各国に完全には及ばないという欧州市民の疎外感が、各国の反EU的なうねりの原動力となってしまっている。

第一次世界大戦で焦土と化した欧州は、二度と大規模戦争が起きないように国際連盟を作った。だが20年ほどで第二次世界大戦を迎えてしまう。その反省から、特に一触即発だったドイツとフランスが交戦しない方法はないか思案した。そして、両国の国境地帯にある戦略物資の石炭と鉄鋼を共同管理するECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が生まれ、今日のEUの母体の一つとなった。

統一通貨ユーロにしても、各国の債務問題が金融機関に波及した際のセーフティネットが未整備だったために危機が長引いている。ただ、昨秋に銀行同盟ができるなど、EU内の金融機関をECBが包括的に処理する体制が整備されてきた。財政がバラバラとはいえ、関税を撤廃した共通通貨圏で域内の貿易は活発化し、メリットを受けた企業も多い。ユーロ離脱、EU離脱のシナリオが賢明とは言い難い。

バベルの塔の物語では、天まで届くような塔を建設しようとした人間のおごりが神の怒りを買い、各国の言語がバラバラになってしまったと言われる。欧州は分裂・自壊の危機を智恵で乗り越えられるだろうか。金融緩和で時間を稼ぎ、構造改革で財政膨張を克服できるか。さらに、近隣諸国と調和しながら発展していけるか。欧州の抱える問題は日本の課題とも数多く符合している。

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