時代は大きく変化し、「財政再建という錦の御旗」を否定するムードはかつてないほど強い。
通信社時代の個人的な思い出話をお許しいただきたい。
初めて大蔵省(現財務省)を担当した三十数年前、「次官会見・懇談」という名前のメディア対応が定期的にセットされていた。前半はオンレコ、後半は「大蔵省首脳」の発言として記事化可能という仕分けだ。
事務次官応接室は広くない。ソファセットに次官とマスコミ各社のベテランが座る。その周りで中堅が立ったままメモを取る。私のような末端記者はその後ろだ。
記憶はあいまいだが、こんなやり取りが展開されたと思う。
「次官、国会で野党がこんなことを言っていますがどうですか」
「ほほお、そうですか」
「予算関連法案の成立に影響が出るんじゃないですか」
「いやあ、いいことを教えていただいた」
とっくに情報は入っているはずなのに、糠(ぬか)に釘、暖簾(のれん)に腕押し。
何か言えば自分の名前が出る「会見」であるため慎重になるのはわかる。幹事が切り替える。
「今から懇談です。次官、さっきの野党の動きを本当はどうみているんですか」
「いやあ、どうですかなあ」
「どう考えても法案審議に影響はありますよね」
「さあ、わかりませんなあ」
何を質問されても、どのように聞かれても、この事務次官からニュースになるような回答が出てきた記憶がない。
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