「ヨーカドー幕張店」激戦区の大改装に差した光明 利用者の買い回りを意識、回復につながるか

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幕張店のような戦略的な改装はこれまでに何度も実施してきた。2020年の神奈川県のたまプラーザ店での改装を皮切りに、2年間で約20店の改装を戦略的に実施。たまプラーザ店では近隣に競合が少ない衣料品などを充実させるレイアウトに変更して、一定の効果も出た。

別の店舗では、衣料品の直営販売をやめて、すべてテナントに集約するという取り組みも実施した。だが、衣料品をテナント任せにしたことで、来店客は増加したものの、食品の売り上げが改装前後で10%程度下落した。

ある競合関係者は、「すべてテナントに頼ると来店客はテナント目当ての目的買いばかりになる。結果として、食品売り場に足を運ぶ来店客が減ったのではないか」と指摘する。

こうした経験や反省を踏まえ、これまでの食品の強みを生かしながら、苦戦してきたライフスタイル部門の底上げを狙い、幕張店の改装に至った。イトーヨーカ堂の梅津尚宏ライフスタイル事業部長も「勝ち筋が見えてきた」と、今回の改装に自信を示す。

ファンドは切り離しを要求

目下、イトーヨーカ堂の業績は厳しい。2015年2月期に最終赤字に転落し、その後は4期連続で最終赤字に。2020年2月期に、最終黒字への復帰を果たしたが、その後は再び赤字に沈んだ。直近の2022年2月期の最終損益は構造改革費用などが重荷となって、112億円の赤字を計上した。

ここ数年、イトーヨーカ堂は不採算店を閉鎖してきた。2016年2月末時点で182店だった店舗数は、2022年2月末に128店まで減少。だが、収益体質の改善のメドは立っていない。

他方、イトーヨーカ堂は物言う株主からの標的にされてきた。直近では、2022年1月にアメリカの投資会社、バリューアクト・キャピタルがセブン&アイ・ホールディングスに対して、イトーヨーカ堂の売却、もしくは食品事業に集中したうえでのスピンオフ(分離独立)を求めた。

セブン&アイとしては、グループ全体の商品を充実させるうえで、イトーヨーカ堂は必要との認識で、切り離しには否定的なスタンスだ。また、事実上の筆頭株主である創業家の思惑も絡み、イトーヨーカ堂の売却は容易ではない。

イトーヨーカ堂によれば、今後改装が必要な店舗は80店ほどあり、立て直しの優先度が高い40店をこの数年で改装していく方針だ。物言う株主からの風当たりも強まる中、イトーヨーカ堂全体の業績を回復させていくうえで、幕張店の改装が持つ意味は決して小さくない。

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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