しかし現実には、中小零細規模の企業になればなるほど、客層が庶民になればなるほど、「3%の価格転嫁」を行っている企業は少なくなっているのです。日本全体の平均としては、物価上昇分に占める増税分は、2%を大きく下回っているのではないでしょうか。
つまり、物価上昇分に占める2%という公に認められている試算は、過度に見積もられている数字であり、消費増税の悪影響を過大に計算してしまっているわけです。それは裏を返せば、消費増税分の影響を除いたとしても、2013年~2014年の実質賃金の下落率は相当に深刻な状況にあったということを表しています。
実質賃金の水準自体の回復が焦点に
これから2015年以降の実質賃金を見ていく場合には、前年の増減率ではなく、実質賃金の水準自体が戻っていくかどうかに注意しなければなりません。原油価格の下落がアベノミクスの失敗を和らげるため、実質賃金が前年比である程度増えるのは当たり前であるからです。その意味でも、実質賃金指数そのものが2012年末の水準にどれだけ近づいていくことができるのか、これが2015年~2016年の課題になっていくでしょう。
次回は、リフレ政策を支持する人々が強弁する「アベノミクスによって失業率が低下した」という見解が、いかに間違った見解であるのかを説明したいと思います。
リフレを支持する経済学者たちが、自説の誤りを覆い隠すために確信的にそう言っているだけなら別に構いません。しかし、それを真に受けてしまう人々が意外に多いという現状に至っては、国の未来にとって由々しき事態となるからです。
最後に、念のため断わっておきますが、私は安倍政権のすべての政策を批判しているわけではありません。「過度な金融緩和は国民を苦しめるので、早くやめたほうがいい」と言っているだけなのです。
私の安倍政権誕生前から一貫している持論は、アメリカの景気回復と世界的なエネルギー価格の下落を待ちながら、地道に成長戦略を進めていけばいいというものです。過度な金融緩和に頼らなくても、3年くらい待っていればアメリカの景気回復と世界的なエネルギー価格の下落によって日本人の暮らし向きは良くなると予想していたからです。
特に、農業の成長産業化については、これまで拙書で何回も書いてきたことですし、この連載でも取り上げてきたことです(2012年12月28日の「安倍新政権は農業・観光・医療を強化せよ」および2013年1月24日の「『日本のゾンビ産業』、農業は世界一になれる」の両コラムを参照)。
その意味では、安倍政権の農協改革に対する実行力は評価していますし、ぜひ農業を成長産業化してほしいと願っています。
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