ついに始動?マレー半島―中国間「鉄道貨物輸送」 マレーシア鉄道「ラオス行き」運行で何を狙うか

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マレーシアから中国向けの主な輸出品は電子機器・部品となるだろう。タイとの国境に近いペナン州には古くから日本企業の電子部品製造拠点もある。一方、中国からマレーシア向けとして予想される積荷は雑貨類や食料品、衣類などの小口貨物となる可能性が高い。現在は、中国各地から広東省・深圳などにある物流ハブに向けてトラックや鉄道で輸送し、そこから航空貨物便でクアラルンプールやペナンへ運んでいるが、これを陸路に切り替えることができそうだ。

10月以降に予定する「アセアンエクスプレス」の本格運行では片道週2便を運行し、輸送力は週に80TEU(20フィートコンテナ換算80個分)といい、輸送規模はそれほど大きくない。ただ、貨物船積載用のコンテナをそのまま積めるとなれば、現用の鉄道が「海上ルートのバイパス」として生かせることになる。

アセアンエクスプレス貨物列車
タイ国内に到着したアセアンエクスプレスの試運転列車(写真:KTM)

ウィー運輸相は試運転と同時期にクアラルンプールで開催された鉄道技術展(RTX)の発表会で「ASEANの鉄道プロジェクトは急速に発展しており、われわれマレーシアはASEAN市場に参入する機会をつかむ必要がある」と発言。ASEAN周辺国のみならず、中国とも結ぶ貨物輸送ルートの活発化に期待を寄せている。

マレーシア、タイでは華々しかったが…

筆者は8月11日に試運転列車がクアラルンプールを発車して以降、その行方を沿線各地の知人らの協力を得て追っていた。当初「72時間でタナレーンに着く」と発表されたことから、本来なら15日には国境を越えてラオスに到達するはずだ。

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だが、タイ国境のパダン・ブサールには11日夕方に着いたものの、その後タイ側で動きが確認されたのは15日にバンコク郊外のバンスー(Bang sue)操車場にようやく着いたという報道だった。タイ側で運行を引き継いだSRTは「17日にはノンカイを通過し、その日のうちにラオスに入る」と発表したものの、その後試運転列車に関する報道は消えてしまった。バンスーでは、駐バンコクマレーシア大使をはじめ、タイの運輸省の官僚も臨席して賑々しくセレモニーを行ったにもかかわらずだ。

ラオス―タイ間は定期の貨物列車も含めてすでに多くの列車が往復しているため、わざわざ試運転列車をタナレーンまで入れる必要はない、と判断したのか、ラオスを取り巻く鉄道の開発が中国主導で進んでいることから、別の国が取り仕切ろうとする新たなプロジェクトが現地で不興を買ったのか。ともあれ、「試運転列車の行方が報道の俎上から消えてしまった」のは興味深い動きと言えよう。ASEANと中国の微妙な関係を示す1つのサンプルかもしれない。

また、今回の試運転列車運行にあたり、出発国のマレーシアでは運輸相が自ら見送り、通過国のタイも盛大な出迎えを行うなど両国が期待感を示す一方、目的地のラオスでは現地新聞が「マレーシアから試運転の貨物列車が出る」とのクアラルンプールからの外電を転載する程度の反応にとどまっている。

「アセアンエクスプレス」の本格運行開始は10月だ。はたして無事に、マレーシアと中国双方からの積荷が行き交うことになるのだろうか。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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