日本のテレビ局の女子アナだけに起きている異常 「ジェンダー問題」と「男性優位社会」を象徴する

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映画「アパートの鍵貸します」で描かれた1960年ごろの男性優位社会への大きな反発もあり、世界中でいろいろな動きがあって、その後1990年代に私が訪れた欧米メディア企業は、仕事のできるミドルの女性が、エグゼクティブとして対応してくれた。日本では受付に若い女性をずらっと並べている企業も一部に見られるが、そのような光景はなかった。出産を経て、社の人間関係を良く知る人物や、障害を負った方もいた。

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そんな中、今年6月8日、EU・欧州連合(加盟27カ国)から、日本の企業経営者を驚嘆させるニュースが入ってきた。EU圏内の全上場会社を対象に2026年までに社外取締役の40%以上・全取締役の33%を義務付ける法案が成立したのだ。「女性役員ゼロ」の上場会社が33%もある日本とは、対照的だ。

2015年、この潮流を感じた東京証券取引所はガバナンス的な意味もあり、上場企業に対して社外取締役に2人以上の女性を組み入れる指示を出した。

ただ、その後不思議な事態が起きる。ここに多くの有名女子アナやキャスターが選ばれることになったのだ。あくまで推測であるが、選出基準が、“知名度が高く・高学歴で・華があり・広告塔になりうる”というものだとしたら、各企業の姿勢は世界基準からかけ離れていると言わざるをえない。「社外取締役に女性を登用しましたよ」ということをアピールするために、知名度が高いアナウンサーを利用してはいないか。こんなところにも、日本社会の「時代遅れ」感がにじんでいるような気がしてならない。

日本社会は整っているように見えて遅れている

日本社会では今でも“体裁と見た目“が大事だ。外国から来た方は「清潔な空間・時間通りに来る電車・礼儀正しさ・食事が美味しい」ということに驚くが、実は、整備されていないことがたくさんある。

「見た目」で選ばれ、キャリアを積んでも30歳を過ぎて結婚すると、なぜか別の部署に異動させられ、出産・子育てを経た後に、第一線に復帰する女子アナもいるが、それはごく一部である。「ジェンダー問題」と「男性優位社会」。これを象徴しているのが、“女子アナ“なのである。

吉川 圭三 KADOKAWA映像企画制作部・プロデューサー、dwangoモバイル事業本部エグゼクティブプロデューサー

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よしかわ けいぞう / Keizo Yoshikawa

1957年東京下町生まれ。早稲大学理工学部卒。1982年、日本テレビに入社「世界まる見え!テレビ特捜部」「恋のから騒ぎ」などのヒット番組を手掛ける。現在はKADOKAWA映像企画制作部・プロデューサー、dwangoモバイル事業本部エグゼクティブプロデューサー、早稲田大学理工学術院表現工学科非常勤講師。著書に「ヒット番組に必要なことはすべて映画に学んだ」(文春文庫)「たけし・さんま・所の『すごい』仕事現場」(小学館新書)、小説「泥の中を泳げ。テレビマン佐藤玄一郎」(駒草出版)がある。

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